読者から届いた素朴なお悩みや何気ない疑問に、人気作『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社刊)の作者・菊池良さんがショートストーリーでお答えします。今回は一体どんな相談が届いているのでしょうか。

今回のお悩みは…(写真はイメージです)
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前回の相談はこちら

「かばんのなかで、ものをよく失くす」驚きの原因。もう焦らなくてすむ解決方法とは
タイトル

ここはふしぎなお悩み相談室。この部屋には世界中から悩みや素朴なギモンを書いた手紙が届きます。この部屋に住む“作者”さんは、毎日せっせと手紙に返事を書いています。彼の仕事は手紙に書かれている悩みや素朴なギモンに答えること。あらゆる場所から手紙が届くので、部屋のなかはぱんぱんです。

「早く返事しないと手紙に押しつぶされちゃう!」それが彼の口ぐせです。
相談に答えてくれるなんて、なんていい人なんだって? いえいえ。彼の書く返事はどれも想像力だけで考えたショートストーリーなのです。

さぁ、今日も手紙がやってきましたよ──。

【今回の相談】しまっておいたはずの靴下の片方が見つからない

相談者

しまっておいたはずなのに靴下の片方が見つからないことがよくあります。あれはいったいなんなのでしょうか?(PN.行列好きさん

【作者さんの回答】伝統的なモングースの奇妙な童謡

作者さん

古くから伝わる童謡にこんなものがある。

靴下消えた だれのせいだ
帽子がなくなった だれのせいだ
モングースのせいだ
みんなが消えた
モングースのせいだ

モングースはいたずらをする妖精、あるいは怪異の類である。その見た目はげっ歯類に近く、過去に書かれた絵によっては鋭い爪を有している。かつてはどの家庭でもなにか物がなくなると、「モングースのしわざだね」と言うのが決まり文句だった。それはある種の慰めの言葉でもあった。

サウス・ジョージタウン大学のアラン・マクマホン博士のもとへモングースが運び込まれてきたのは1951年の秋のことだった。博士はこれをある動物商を通じて手に入れた。非合法なやり方で動物を売買しているらしいと噂されるきな臭い男だった。

その連絡を電話でもらったとき、博士はまずもって詐欺かあるいはからかわれているのだと思った。にべもなく断ろうとしたが、しつこくすがりつくその男に一度だけ会ってやると返事をした。そして、大きめの鳥かごに入れて持ち込まれたその奇妙な生物をまえにして、博士はその存在を認めるしかなかった。

博士はその生物を研究所で飼育し、生態を観察することに決めた。

10月18日

なんてことだ。こいつは生きている。
こげ茶の毛が全身を覆っていて、丸々とした目は黒一色である。その瞳を見つめると、こちらの顔がはっきりと見えるぐらい澄んでいる。
こちらが観察しているときに動くことはほとんどなく、寝転がっている。たまに発せられる鳴き声は甲高く、鳥のキーウィを思わせるものだ。
しかし、困ったことになってしまった。こいつはいったいなにを食べるのか…。

10月21日

どうやら肉食でも草食でもないようだ。わたしが見ているときになにかを食べている様子はない。ひょっとしたら、めったに物を食べない動物なのかもしれない。
つい観察に夢中になって、昨日と一昨日は家に帰ることを忘れた。なにが起こるわけではないが、こいつの目を見ていると引き込まれるものがある。
さすがに今日は帰ってシャワーを浴びよう。助手になにか言われるまえに。

10月24日

相変わらず、モングースは一日のほとんど寝そべって過ごしている。まるで猫のようだ。
わたしもその様子をじっと見つめていると、なにかを食べることを忘れてしまう。ハッと空腹に気づいて研究所にある携行食をとる。そこでわかったのだが、モングースは目のまえでわたしがなにかを食べると甲高い声をさらに高くして叫ぶのである。なにかに怒っているように。
助手はモングースの観察に反対だ。そんなことよりも従来の研究を進めたいと言う。かれとは口論になったが、じきに喋らなくなった。