家づくりでは、自分の好みに沿った外観デザインにこだわりたいもの。ただし注意も。外観の形や素材によって、建てたあとのメンテナンスコストが大きく変わってきます。加えて、敷地の環境(たとえば、住宅密集地のコンパクトな土地)によっても、コスト視点で考えるなら選択肢が異なることに。今回はとくに、屋根と外壁に着目。一級建築士の新井崇文さんが、自身の設計手法を交えながら「メンテナンスコストに配慮した家づくり」について解説します。
すべての画像を見る(全11枚)メンテナンスコストには、どんなものがある?
家づくりに際して「新築時の建設費用」であるイニシャルコストは、だれもが重視する要素。しかし、一方で「老朽化にともなう修繕費用」であるメンテナンスコストも、大切な要素です。
メンテナンスコストの大部分を占めるのは「設備機器」と「外装材」に関する費用です。設備機器は、浴室・キッチン・トイレなどの水回り、給湯器・コンロなどのガス機器、エアコン・照明などの電気機器からなるもの。これらはおおよそ10~20年で寿命を迎え、交換することとなります。
一方、外装材は早ければ10年程度で塗り替えなど修繕が必要なケースから、30年以上たっても修繕が不要なケースまでさまざまです。立地環境による差もありますが、外観の形や素材によっても随分と差がでてきます。
外装材といえば、おもに屋根と外壁。このいずれかが劣化すると、外周に全面足場を組んでの修繕工事が必要となり、まとまった費用がかかります。
こうした足場の必要な修繕工事の頻度をどれだけ少なくするかが、メンテナンスコストを抑えるポイントだといえます。
まず屋根ですが、これはなるべく高耐久の材料を採用することが肝要です。
スレートはおおむね10~20年程度で表面が傷んできて、塗り替えが必要となります。ガルバリウム鋼板や瓦などは、より長持ちする傾向にあるため、メンテナンスコストの点から望ましいといえます。
次に外壁ですが、軒の出(屋根から軒の先端までの部分)と外壁の素材との組み合わせがポイントとなります。「軒のある家」と「軒のない家」に分けてみていきましょう。
軒があると、外壁選びの自由度は高くなる
軒とは、外壁の外側に屋根が出ている部分のことです。軒には外壁を雨から守る機能があり、雨の多い日本では、軒のある家が一般的な形として多く採用されてきました。
軒には、窓を雨や日射から守る意味もあります。窓の上に軒があれば、少々の雨でも窓をあけて風を通すことが可能。また、夏場には日射が室内に入るのを防ぎ、熱負荷を低減してくれます。
軒のある家では、軒の出の大きさにもよりますが、外壁が雨から守られる効果もある程度期待でき、外壁の素材選びがしやすくなります。
たとえば、漆喰などの塗り壁、塗装仕上げの外壁、板張りの外壁、リシン吹き付け仕上など凹凸のある外壁でも採用しやすくなります。というのもこの手の素材、雨にあたると汚れや劣化がより進行しやすいのです。
一方、外壁の外側に突き出ている軒自体は雨風に強くさらされます。とくに鼻隠し(軒の先端部)は劣化しやすい部分。この鼻隠しが劣化して再塗装するとなると、外周に足場を設置しての作業が必要となり、まとまった費用が必要となります。
対策としては、この鼻隠しを塗装仕上げではなく、ガルバリウム鋼板(工場で焼付塗装した高耐久の金属板)で仕上げる手法もあります。イニシャルコストは上がりますが、先々のメンテナンスコストが軽減できることを考えれば、トータルコストとしては有利です。
軒のないほうが有利なこともある
昨今では軒のない家も多く見られます。敷地がコンパクトで、隣地境界線ギリギリまで家を建てる場合など軒がないほうが適している場合がありますし、外観イメージとして軒のないモダンな形状が好まれる場合もあります。軒のない家は部材が少なくてすむので、建設費を抑えることもできます。
一方、課題となるのは外壁のメンテナンスです。軒のない家では、外壁が常に雨ざらしに。雨に強くない外壁材だと、早期に劣化や汚れが進行してしまい、メンテナンスコストが高額になってしまいます。
そこで軒のない家では、雨に強い外壁材を採用することが重要です。筆者がよく採用するのはガルバリウム鋼板。ガルバリウム鋼板は工場で焼付塗装した高耐久の金属板で、雨ざらしの外壁でも劣化を気にせず採用できます。
逆に、雨ざらしのほうがホコリや汚れを雨が洗い流してくれるので、むしろ好都合と考えているくらい。ガルバリウム鋼板以外にも、タイルや光触媒塗料などの仕上げなら、軒のない家の外壁材として適しているでしょう。
軒のない家では窓を雨や日射から守ることも課題となります。対策としては、窓の上部に庇(ひさし)をつけること。窓のすぐ上につける庇であれば、小ぶりな庇であっても効果的。多少の雨なら窓をあけることができ、夏の日射が室内に入るのも、ある程度防げます。