年末年始の帰省で、お墓に足を運ぶ機会が増える季節ですが、お墓が建つ霊園の運営母体にはいくつか種類があるのをご存知でしょうか。
お墓を建立するときや継いだとき、その特徴について深く知らないままにしておくと、望まないおつき合いや出費が発生してしまうことも。

「お寺が運営する霊園と自治体が運営する霊園、一般企業が運営する霊園の3種類に分かれます。さらに、お寺が一般企業に土地を貸し出して管理運営を委託するなど、さまざまなパターンがあります」と語るのは、葬儀関連サービス企業でPRを務める高田綾佳さん。

ここでは、よくあるトラブル例をもとに、好美さんという人物のケースを紹介してもらいました。

霊園の墓石と花
霊園のチラシに「宗旨・宗派は不問」と書いてあったのに…?
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お寺とのおつき合いは必要ないと判断したのに、新しいおつき合いが発生!

好美さんは、首都圏に住む50代の会社員。同年代の夫を急な病気で亡くしたばかりです。

地方出身の次男だった夫の実家から、「こちらのお墓は後継ぎである長男夫婦が代々入る墓なので、次男を本家筋のお墓に入れることはできない」と言われたため、新たにお墓を建てることに。四十九日を終えたことをきっかけに墓地探しを始めました。

生前の夫と二人で決めていた条件は「宗教色がないお墓にすること」。

というのも、夫の実家は地元のお寺の檀家で、代々そのお寺とおつき合いしていたからです。
先代の住職が亡くなったあとにお寺を継いだ息子と義理の実家とは折り合いがよくなく、法事を毎回苦労しながら執り行っている義母を見ていました。

子どものいない好美さんと夫は、老後を見すえて、必要以上に人づき合いを広げなくてすむような霊園を探そうと考えていたのです。

一周忌までには納骨先を決めたいと考えた好美さん。公共墓地や企業が管理する墓地を中心に探していたところ、「Aメモリアルパーク」という宗教色が薄い霊園のチラシを発見しました。
チラシには「宗旨・宗派は不問」と大きく書かれており、条件を満たせそうだと考えた好美さんは、早速チラシに書いてある電話番号に連絡しました。

電話がつながった先は石材店で、見学の受付に加えて墓石の提案などもしてくれるとのこと。
数日後にAメモリアルパークを見学したところ、自宅からのアクセスがよく、また見晴らしもよかったので、一目で気に入った好美さん。その場で契約を決めて、必要な手続きをすませました。

●宗教色が薄い霊園を選んだはずが、戒名料とお墓の開眼供養料が必要に…?

そのまま費用を払い込み、墓石を建立。その後、一周忌を機に納骨をしようと好美さんは再び石材店に連絡しました。
必要な手続きや費用について聞いたところ、電話先のスタッフからは「納骨の代金に加え、戒名料とお墓の開眼供養料が必要となります。B寺さんのために20万円ほど包んでおいてください」との返答が返ってきました。

墓

「なぜそこでお寺さんが?」と疑問に思って尋ねてみたところ、じつは「Aメモリアルパーク」は石材店がB寺から土地管理と営業を委託されて展開している霊園だということが判明。

そして、その霊園と契約した場合は、自動的にB寺の檀家になる仕組みとなっていたのです。

「宗旨・宗派不問」だからこそ契約したつもりの好美さんは、納得がいきません。

スタッフに理由を尋ねると、「宗旨・宗派不問というのは、これまでの宗旨・宗派は問わないという意味で、その後の供養についてはお寺の宗旨・宗派に従ったやり方を取る」という意味だと説明されました。

電話を切ってからチラシと契約書を確認してみると、確かに小さい文字で「この霊園はB寺から土地管理および営業を委託されており、契約時にはB寺とご縁を結んでいただきます」と書かれていました。夫との約束を守れなかったことと、想定していなかった新たなおつき合いが発生してしまうことに、好美さんは落胆しています。

お寺・自治体・一般企業…。運営母体の違いからくる霊園の特徴を把握しておこう

好美さんのケース、いかがだったでしょうか。

お寺とのおつき合いが発生する霊園と契約した場合、菩提寺となったお寺がその後の檀家のご供養をサポートすることになります。
菩提寺の存在で法事法要に悩む必要がなくなり安心する方が多くいる一方で、好美さんのように新しい人づき合いを避けている方にとっては不満も。

今回のケースはどこが問題だったのでしょうか。

【問題点】
(1)「宗派不問」の意味を早合点してしまった
(2)運営母体の特徴を見極めたうえで霊園を決めなかった
(3)チラシや契約書を隅々まで読まなかった

こうしたトラブルを防ぐためには、お墓を購入する際にこれらのポイントを確認してみることをおすすめします。

【解決方法】
(1)「宗派不問」には2とおりの意味があることを知っておこう

宗教離れしている人が増えていることを背景に「宗派不問」をうたう霊園が増加していますが、この言葉はまったく意味の違う2とおりの使われ方をしています。

a.契約前にどのような宗旨・宗派を信じていても問題ないし、無宗教でもかまわない。契約後も特定の宗旨・宗派の儀礼に縛られたり、檀家への加入を求められることはない。

b.契約前にどのような宗旨・宗派を信じていても問題ないし、無宗教でもかまわない。しかし、契約後は特定の寺院、宗旨・宗派のやり方に則った供養を行う。そのため、特定の宗旨・宗派の信徒となることが必要となる。

とくにbのケースは、寺院が土地を保有している霊園に多く見られます。気になる方は一度霊園に確認してみるとよいでしょう。

(2)運営母体の違いからくる霊園の特徴を把握しておこう

冒頭にもお伝えしたとおり、霊園の運営母体として挙げられるのは、お寺・自治体・一般企業の3種類。それぞれ以下のような特徴があります。
最近はお寺や自治体が一般企業に管理運営を委託しているケースが増えているので、土地の保有者まで含めて確認することで判断材料を増やしてもいいかもしれません。

お寺

:手入れが行き届いており法事・法要などの供養行事に対するバックアップは万全になる。一方で区画の購入にあたってそのお寺の檀家になる必要があるケースが多いほか、おつき合いと出費が発生する。

自治体

:宗旨・宗派を気にする必要がないほか、霊園がつぶれる心配もなく、価格は格安。一方で首都圏を中心に抽選が熾烈で区画を確保しづらい。

一般企業

:宗旨・宗派を気にしなくてよい場合が多いほか、石材店が経営している場合は墓石とセットで手ごろな価格でお墓を購入できる。一方で、お寺・自治体に比べると永続性に難がある。

(3)募集媒体や契約書に「檀家と菩提寺」について書いているか確認しよう

新聞の折り込みチラシや電車の中づり、ドアばり広告などでよく目にする霊園の案内。
立地や金額、魅力的な条件などが目につくように表現されていますが、よく確認すると運営母体に関する記載がある場合も。霊園との関係についてこだわりがある場合は、隅々まで確認して細かい条件をチェックしましょう。

ただ、募集媒体に知りたい情報が書かれていないケースも。今後のおつき合いが気になる方は、事前に電話やメールで確認してみるほか、契約時に契約書を確認してみるといいでしょう。

お墓は故人やご先祖様を偲ぶことができる大切な場所。
お坊さんのサポートのもとで供養したい人がいれば、特定の宗旨・宗派に縛られない形で供養を行いたい人もおり、そのニーズは多様です。

自分たちにどの形がいちばんしっくりくるのかを基準にすると、お墓選びに新しい視点が得られるかもしれません。