周りに家が建ち並ぶ住宅地では、LDKを2階に配置する間取りが人気です。それは、1階よりも明るく、風の流れも取り込めて、気持ちのいい空間が生まれるから。 しかし、建築家の飯沼竹一さんによると、注意しなければならないことがあるそうです。それは階段!一体どういうことでしょうか?飯沼さんが手がけた事例を交えて、後悔しない2階リビングについて、わかりやすく解説してもらいました。

都市部の住宅では、2階リビングはおすすめのプラン

住宅密集地
建物が密集した環境だと、1階での採光は期待できない
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都市部に建つ住宅は、そのほとんどが密集する場所に建ち、敷地も狭小なものが多くなります。当然、敷地の周囲は建物に囲まれることに。

建物同士の距離がとても近かったり、接道する道路が狭かったりするため、1階の南側に窓を大きく開けても、隣の家の影になり陽が入らないとケースが多くなります。

それだけでなく、周囲の視線が気になることさえあります。

 

2階リビングの家

その解決策のひとつとして2階リビングがあります。2階リビングとは、日当たり悪く暗い1階に個室や水回りを配置し、家族が集う居間、食堂、台所を2階に上げ、明るく開放的な間取りをつくる方法です。

そしてバルコニーやルーフテラスをうまく配置したり、ハイサイド(高窓)やトップライト(天窓)を利用したりすれば、自然光が入り、風を通すことができます。

朝日を浴びながら、家族みんなで朝食を食べることも!休日は、リビングから外のテラスに出てBBQなども可能になります。そして、もし敷地の隣接する一方向にあきがあれば、眺望も得ることができるのです。

1階に個室などが配置することは、壁の量が多くなるので耐震性能も上がることにもなります。2階リビングは暮らしやすく、地震にも強い住空間ができる可能性が広がります。

 

2階のリビングの階段

しかし、いいことばかりのように思える2階リビングでも、思わぬ落とし穴があります。
それは階段です。

 

快適なはずの2階リビング。上り下りが意外と大変!

吹き抜けと階段

2階、3階建ての住宅の階段は、とても重要な動線です。また、上下をつなぐ特別な空間。建築家である筆者も、計画には細心の注意を払いますし、また腕の見せどころでもあります。

 

2階リビングに続く階段

ただ、熟考のうえプランニングしたとしても、毎日何度も階段を上り下りする住み手にとっては、かなりの負担になります。

住み手がずっと元気で健康であればよいですが、ケガをしたり、体調不良になったりすると、階段の昇降がつらくなります。

また、子どもやペットを抱っこしての上り下りが、きつく感じることもあるでしょう。

それが2階リビングならなおさら負担が増えます。スマホをダイニングテーブルに置いたまま下りてしまい、電話が鳴って取りに駆け上がることもあるでしょう。子どもが学校から帰ってきてピンポーンとインターフォンが鳴って、カギを開けに下りることもあるかもしれません。

だから、2階リビングは大変ですよ、と言われることが多いのも実情です。

 

2階リビングダイニングの階段で後悔するシチュエーション

  • ・階段の上り下りが頻繁になり面倒
    ・買い物した荷物や生協などの宅配品を、2階まで運ばないといけない
    ・宅配便や郵便物を、いちいち階段を下りて受け取らないといけない
    ・ゴミ出しの際も階段を、下りなければならない
    ・来客があったときに、1階まで下りないといけない
    ・あわてて上り下りした際に、段を踏み外してケガをした

上り下りがラク!後悔しない階段のつくり方

理想の階段をつくる

ではどうするか。建築家として提案していきましょう。

まずは、階段の上り下りが、身体的に負担少ない階段をつくることが大事です。階段の勾角度40度以下に。

また1段ごとの高さ(蹴上げ・けあげ)と、段の奥行き・足をのせる板の面(踏み面・ふみづら)をバランスよく計画し、上り下りしやすい階段にすることです。これは昇降の安全性も向上します。

建築基準法では蹴上げ23㎝以下、踏み面15㎝以上と定めています。法律に適合していても仮に、蹴上げを23㎝、踏み板を15㎝で設計すると、勾配が55度を超えてしまいます。これでは、毎日数回上り下りするにはかなり大変です。

都市型住宅ではなかなか難しい数値ですが、理想は蹴上げ18㎝、踏み面26㎝。

私のこれまでの経験からすると、現実的には蹴上げ20㎝、踏み面25㎝がおすすめです。階段は上るときよりも下るときの方が事故が多いとの統計がありますから、踏み面が大きい方がしっかり足が乗るので安心です。

階段の設計は自身でするものではありませんから、当然、設計士や工務店に希望を伝える必要があります。打ち合わせの早い段階で、イメージを共有しておくといいでしょう。

 

踊り場や手すりがあると安全!年をとってからも安心

オシャレな階段

踊り場や手すりを適切に設置して、安全面に配慮をすることも大切です。

 

安全な階段のつくり方

一直線の階段だと、足を踏みはずした際に、一気に下まで落ちる危険があります。途中に踊り場があれば、そこで止まることができます。さらに、握りやすい手すりを用意しておけば、いざというときにつかめて、安心感が増します。

段板の先端付近には、すべり止めと段の認識のために、ノンスリップをつけることも効果的です。

また、1階の個室の天井高さを低めに設定したり、天井仕上げを工夫したりすることで階高(1階の床から2階の床までの高さ)を低く計画すれば、階段の段数を少なくできます。蹴上げ高さにもよりますが、1段少ないだけでも、毎日の上り下りが少しラクになります。

そして単に移動する空間ではなく、空や景色が見える窓を設けるとか、ニッチを計画したり、絵を飾ったり観葉植物を置いたりして、居心地がよい場にすることを提案します。

また小さくても吹抜けをつくっておくと、上階と下階の声が通りやすく、家族の気配が感じられるようになります。

 

足腰が弱くなったときのことも考えたプランに

60代夫婦の2階リビング

上の写真は、最近、建替えの依頼があった60歳のご夫婦の2階リビングです。2階リビングのデメリットを説明しましたが、それでも「日中自然光が入るリビングダイニングで暮らしたい」、「階段を昇降することで足腰をきたえて元気に過ごしたい」という要望でした。

 

上り下りしやすい階談

そこで、上り下りしやすく、危険が少ない解散を設計。そして将来身体的な制約ができて上り下りができなくなったときに、階段昇降機(リフト)を設置できるだけのスペースを計画しました。

参考までですが、コストも階段昇降機ならば200万円以内で設置可能です。またエレベーターは建築確認申請が必要ですが、階段昇降機は一般の木造住宅では不要です。

 

自宅の2階リビング

筆者の自宅も2階リビングです。居心地よく、明るく開放的な空間に癒やされています。

 

昇降機を取りつけた階段

筆者は高齢の義母と同居しています。最近、いよいよ階段の上り下りがつらくなり、階段昇降機を設置しました。

上は、設置後すぐに長男がサッカーで脚をケガしたときの写真です。このときも階段昇降機が活躍してくれました。

あらかじめ、しっかり計画を立てておけば、2階リビングのメリットは大です。大変だからと決めつけず、検討してみてはいかがでしょうか。

 

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