絵本作家の西出弥加さんと光さん夫妻は、夫婦ともに発達障害という特性をもちながら、結婚生活を送っています。
ドキュメンタリー番組でも取り上げられるなど、注目されるふたりのリアルな暮らしについて、妻の弥加さんにつづっていただきました。

夫婦で発達障害。ところが、お互いの特性はまったく違ったもので…

西出夫妻
西出夫妻。左が弥加さん、右が光さん
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●「どうしてもできなくて」と泣く夫、怒ってしまう私

私たちは夫婦ともに発達に特性があります。お互いに極端に「苦手なこと」と「得意なこと」をもっていて、私たちの結婚生活は平穏にはスタートしませんでした。なぜなら、タイプがまったく違うからです。

日常生活での抜けが多いADHDの夫に対して、私は次第に「自分は結婚したのではなく子育てしているのかもしれない」と思うようになりました。それは夫をバカにしているのではなく、そう思わないと苦しい自分が出てきてしまったからです。

私の方はASD(自閉症スペクトラム、アスペルガー)で、ずっと幼少期から強迫観念のようなものを持っていたため、「抜けてはならない、ミスは許されない」と闘いながら生きてきました。だから抜けが多い夫に対して、つい「これはできるよね?」と大きな圧をかけてしまっていました。

スマホを見ている様子

夫は会社勤めが10日しか続きません。何度も就職しては辞めてしまいます。

私はそんな彼を見て、なぜ1日中ゲームをやっていたり寝たりしているのか、なぜ鍵を閉め忘れてしまうのか、なぜ自分と並走してくれないのか、そしてなぜ自分だけが収入を得るために働いて、大好きな絵の仕事まで諦めて夫の世話と家事までしているのか…。

絵やデザインの仕事をするという、自分の根幹がなくなってしまったことで落ち込んで、私はとうとううつ病になってしまいました。私も発達に特性があり、この仕事しかできなかったので、結婚生活そもののが苦しくなってしまったのです。

夫はそんな私の問いに必死に応じようとしてくれました。スマートフォンからゲームアプリも消して、たくさん会社の面接も受け、家事も覚えてしてくれるように。今は圧力鍋でご飯を炊くのが私よりずっとうまくなりました。

ただ、それでも抜けはなくならず、私のパワーが限界に達していました。寝坊している夫を起こしたり、家の契約や解約の手続き、夫の傷病手当の段取りも「なんで私だけやってるのだろう?」と考えるととても悲しくなってしまうのです。

●とうとう夫が家出。泣く姿を見て、夫との関係性を見直そうと決意

雨の早朝の風景

先日、夫が家を出てしまいました。寒い雨の中、早朝に裸足で飛び出して行きました。

私は後を追って探したのですが、見つかりません。交番に相談したら、おまわりさんは「大丈夫、探したるわ」と励ましてくれながら捜索に協力してくれました。まもなく夫は見つかりましたが、泣いていました。私は申し訳ないと思いました。

「私がここで責めたらもっと追い込んでしまう、やはり私が我慢したらいいのかも」とぐるぐると考えていたところ、おまわりさんは私にこう言いました。

「君は当たり前のこと言っとるよ、思いつめないでいいから。変わりたくないならなにも言わなきゃいいけど、変わろうしたら必ずこういうことが起きるんよね、一人で抱えないで僕の交番や市役所においで」と…。