最近ではノンワイヤーのブラジャーが増え、タンクトップやキャミソールにブラカップがついた「ブラトップ」がメジャーになるなど、ブラジャーの流行が、より着心地がいいものへと変化しています。
時代によって移り変わるブラジャー事情ですが、そもそも、なぜブラジャーが必要なのでしょうか? ブラジャーをつけることで、どんないいことがあるのでしょうか?
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正しくブラジャーをつければ、姿勢がよくなり、凛とした立ち姿に
ランジェリーショップのオーナーで、40年以上ブラジャーのフィッティングに携わってきた龍多美子さんは、「日本女性にとってブラジャーが必要な理由はいくつかあります。バストトップを隠すため、バストを寄せたり上げたりするためはもちろんですが、ほかに重要な役割が。そのヒントは“着物”にあります」と言います。
さらに龍さんは、「多くの人は、ブラジャーの正しいつけ方ができていないように思います」とも語ります。日本女性の体形とブラジャーについてずっと研究してきた龍さんに、詳しく教えていただきました。
●着物の凛とした姿勢をブラジャーで再現
日本人は長い間、着物を着て生活していました。
女性の場合、胸の下に締められた帯が体に支点(動かないところ)をつくり、背中で襟を抜く(下げる)ことで、無理なく姿勢を「引き起こす」ことができていました。
喜多川歌麿などによる浮世絵の美人画にも描かれていますが、そのたたずまいは女性らしい曲線を感じさせながらも、どこか一本筋がとおっていて、凛としています。
ところが戦後、本格的に洋装が生活に取り入れられ、着物が洋服にとって代わっていくなかで、肝心の「引き起こす」という姿勢が忘れ去られてしまいました。
とくにブラジャーのおもな役割は、バスト、ウエスト、ヒップの3つのパーツにメリハリをつけて、体を立体的につくることだけに絞られていきます。
その結果、昨今の日本女性たちは体の支点を失い、姿勢を引き起こすことができず、背中や肩はどんどん丸まっていく傾向にあります。
しかしブラジャーのワイヤーで胸の下に支点をつくり、アンダーベルトの後ろを下げれば、着物の胸の下に締められた帯と似た働きをし、無理なく姿勢を引き起こされます。
文字通り「自立」した体を手に入れられれば、かつての日本女性が浮世絵のなかで醸し出していた、女性らしい凛々しさを取り戻せるはず。
●ブラジャーは後ろを思いきり下げるのが正解!
ものは試しに、お手持ちのブラジャーを着けた状態で、背中のアンダーベルトのホックの両側を両手で持ち、思いきり下へ下げてみてください。自然と、体が引き起こされるのが感じられるはずです。ただし、ブラジャーの前側は下げないこと。
「ブラジャーの前後は平行に」「ブラジャーを直す際にはバストをカップに入れ、前を引き下げる」が、正しいつけ方と思い込んでいる人もいるかもしれません。でもこれからは、「背中のホック部分を思いっきり下げる」と覚えてください。体が引き上げられ、凛とした姿勢に近づきますよ。
下着は「私の体は美しい」と感じるためのツール
最後に少し、私自身のことを。私は東京都内で下着の専門店を35年ほど営んでいる、いわば「下着職人」です。この業界に入ったのは18歳の頃ですから、かれこれ40年以上、下着の世界で生きてきました。
●ガーターベルトとストッキングが運命の始まり
10代の頃から下着が好きでしたが、とくに大きな転機となったのが高校2年のある日。当時つき合っていた年上のボーイフレンドから請われて、ガーターベルトとストッキングを履いたのが運命の始まりでした。
蝉の羽のように透きとおったナイロンストッキングに、自分の脚を入れたときの衝撃は今でもはっきりと覚えています。それはとても官能的で、体中の毛という毛がすべてざわめくような感覚。「女ってこういうことなんだ」と感じました。
この不思議な経験をきっかけに、私は下着の魔力に取りつかれ、18歳の夏に輸入下着の専門店でアルバイトを始めることに。これが、私の下着屋人生の始まりでした。
私にとっての下着は、体の形を整えるといった外側のことではなく、「私って女なんだ」「私はこのままで美しいんだ」ということを内面から感じるためのツールなのです。このツールを使えば、他人の体と比べる必要のない、自分だけの「美しさ」がいつでも感じられます。
●コンプレックスを忘れて、自分の体を好きになるための下着選びを
下着のフィッティングをしていて感じるのは、私たちはあまりにもたくさんの情報のなかで、自分を見失っていないかということ。
「身長とバストの位置はこうでなければ美しくない」とか、「理想的なバストの位置はここ」とか、意味のない情報や、思い込みから生まれた根拠のないコンプレックスで、自分の体をおろそかにしてしまっている女性が、あまりにも多いのです。
正しい下着選びは、女性が自分らしさを取り戻し、自分の体に自信をもつことにつながります。間違った下着に押し込められた体も、正しい下着によって、その人本来の体に戻っていきます。
どんな体でも、「その人固有の美しさ」を内包しています。それを忘れないでください。