家好き芸人・アンガールズ田中さんが、設計者自身が手掛けた個性豊かな自邸を訪問&取材!今回は、小さな神社に寄り添うように建つ、袁碩さんのお宅を訪れました。「いい雰囲気の神社ですね~」(田中さん)。一周するとなぜか身支度画と整う階段、コンパクトなのに開放感のあるリビング、寝ながら映画が楽しめる屋根裏部屋みたいな空間…。楽しく毎日が過ごせる仕掛けがいっぱいのお宅に、田中さんも興味津々!
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仕事場にも遊び場にも。自由度の高い土間空間1F SANITARY 階段を1周すると身支度が整います1F OUTSIDE 神社の緑にさりげなく調和する外観2F LDK スキップフロアでつながるワンルーム3F BEDROOM 三角屋根に包まれた屋根裏部屋のような空間間取図仕事場にも遊び場にも。自由度の高い土間空間
都心の住宅地に建つ、ガルバリウム鋼板の外壁が印象的な袁さんの家。玄関のすぐ横には赤い鳥居があり、階段を上った先の緑が鬱蒼と生い茂る神社の境内には、どこか厳かな雰囲気が漂っています。
「工事中は工務店の社長さんがいつもお参りしてくれて、おかげで無事に家ができました(笑)」と言う袁さんも、一家でよく参拝しているとか。「緑が多くて、いい環境ですよね。家の前の植栽もいい感じです」(田中さん)。
敷地は60㎡とコンパクトで、神社側に擁壁があったり、鳥居が敷地内にはみ出したりしていたことから売れ残っており、「そのぶん安く購入できました」と袁さん。逆にこの環境を生かして、神社を尊重しつつ緑を取り込み、開放的に暮らす工夫が詰まった家を実現しています。
たとえば1階は、玄関を入るとすぐ目に入るオープンな階段に工夫が満載。内部にゲタ箱などの収納スペースや洗濯機置き場を確保し、なおかつ階段を中心に回遊できるプランになっています。
「トイレや洗面所を通り抜けて玄関に行けるから、出掛けるときも便利ですね~。身だしなみも鏡でちゃんとチェックできるし(笑)」(田中さん)
遊び場になったり仕事場になったりと、フレキシブルに使える土間部屋ともつながっています。
こちらは、壁にいろいろなものを掛けられる有効ボードを採用した多目的な土間空間。「見た瞬間、入れると思いました。しっかりしていて、なかなかのクオリティです」と、段ボールハウスを絶賛する田中さん。左手のデスクも袁さんの手づくりで、リモートワークの仕事場になっているそう。
扉を閉めた状態。将来、子ども部屋としても使えます。
「1階のトイレは、便座に腰掛けて隣の洗面台の引き出しを開けると、なんとトイレットペーパーや洗浄ボタンが出てくる!衝撃です!トイレは洗面脱衣室やお風呂と一体になっていて、通路も兼ねているので、邪魔なものを隠せるようにしたそうです」(田中さん)。
【この住まいのデータ(東京都中野区)】
▼家族構成
夫30代 妻30代 長男幼稚園
▼DATA
敷地面積/60.58㎡(18.36坪)
延床面積/84.71㎡(25.67坪):1階/31.27㎡(9.48坪)、2階/32.36㎡(9.81坪)、3階/21.08㎡(6.39坪)
竣工/2019年5月
1F SANITARY 階段を1周すると身支度が整います
内部が収納になった階段。右手の通路側の側面はゲタ箱やコート掛けに、土間部屋側は掃除道具などの収納に、さらに階段の下2段と上2段は引き出しになっています。
階段の奥に配された、通り抜けられるサニタリー。帰宅後の手洗いもスムーズで、階段側には洗濯機置き場も。神社の緑を切り取る高窓が、開放感をもたらしています。
階段の周りをぐるりと回りながら身支度を整え、最後に玄関脇の鏡でチェック。「うん、バッチリ決まってる」(田中さん)。
1F OUTSIDE 神社の緑にさりげなく調和する外観
ガルバリウム鋼板の外壁が軽やかな印象の外観。建物の外側には神社の緑につなげるように植栽を配し、道行く人の目を楽しませています。田中さんが座っている、2階ダイニングの縦長の窓も印象的。
2F LDK スキップフロアでつながるワンルーム
シースルーの階段越しにリビングが見えるDK。リビングの窓を通して神社の緑も楽しめます。キッチンカウンターは910㎜と奥行きが深いので作業がしやすく、ダイニング側は本棚に利用。
2階はワンルームのLDKで、ほぼ中央に細いスチールの手すりと踏み板でつくられた、光と風を通す階段が配されています。階段をはさんで緩やかに分けられたリビングとダイニングキッチンには、45㎝の段差が設けられているのもポイント。
ダイニングのベンチはリビングの床と、キッチンの収納カウンターはリビングのソファとつながっていて、ベンチやソファの下部も収納になっています。
「段差により目線の高さが変わり、空間に変化が生まれます。また、収納は低い位置に納めることで狭く感じないように工夫しています」(袁さん)
リビングやダイニングの大きな窓も、空間の広がりを演出しています。
屋根裏部屋と呼ばれている3階は、アールを描く天井に包まれているような空間。夜は寝室となりますが、デスクがつくりつけられているので勉強や仕事に使ったり、プロジェクターを設置して映画を楽しんだりも。「私もリモートワークになり、家族3人がそれぞれ過ごす場所があるので助かります」と妻。
「コンパクトでも緑が見えて開放感があるし、家族みんなが適度な距離感で気持ちよく過ごせるのは大切だと思いました」(田中さん)
キッチンから一段高くなったリビングを見たところ。田中さんが座っているのは、神社側の窓の前につくりつけられたソファ。下部は収納で、手前のキッチン側の収納につながっています。窓の前には観葉植物や緑の絵を配し、外と内とをつなげています。
ダイニングのベンチの下も収納に。一見、収納だと分からないところもポイント。「ベンチの下もぜ~んぶ収納だ」(田中さん)。
細身のスチールは階段の構造と手すりを兼ねています。見た目がスマートだけでなく、比較的価格が安く、搬入などの手間も費用も抑えられていると聞き、感心する田中さん。
「ベンチに腰掛けて外を眺められる、天井までの大きな窓がすごく気持ちよかったです。開放的な空間をローコストで実現するために、既製アルミサッシの高さに合わせて天井高を設定したそう」(田中さん)。
3F BEDROOM 三角屋根に包まれた屋根裏部屋のような空間
斜線制限に合わせた左右非対称の天井の形が楽しい空間。湾曲させることで高窓からの光をとらえ、やわらかい雰囲気をつくっています。田中さんの背後の扉はクロゼット。床にはサイザル麻を採用。「寝ながら映画を観れるのって最高」(田中さん)。
3階には神社の参道側にテラスを設置。周囲の街並みを見渡せます。
クロゼットと並んで配された3階トイレ。上部にアクリル板が採用されていて、夜は照明をつけると部屋全体をほのかに照らします。
間取図
サニタリーを配した1階は、階段の周りを回遊できるのがポイント。2階は段差により緩やかに仕切ったLDKで、3階に寝室として使う屋根裏部屋を配置。使い方を限定せず、どの部屋でも遊んだり仕事をしたりできるようにすることで、コンパクトな空間をフル活用。
窓を開け、思わず樹木に手を伸ばしてみる田中さん。じつは、地区計画で定められた敷地面積の最低限度60㎡に達するように、神社擁壁のこの部分は袁さんの敷地に含まれています(間取図の右上部分)。
「神社の緑や鳥居との関係が面白かった~」(田中さん)。
取材協力/袁碩(Shuo Yuan)さん
2013年日建設計入社。NIKKEN ACTIVITY DESIGN labを経て、現在は設計部門に所属。プロダクト、インテリアから大型複合建築まで幅広い設計を手掛けている
撮影/中村風詩人 ヘアメイク/石川真理 ※情報は「住まいの設計2021年8月号」取材時のものです