家の周りの緑や庭、さらには室内の植物。グリーンに囲まれていれば、たとえ家にこもっていても開放的な暮らしが味わえます。手軽に外出できなかったり、テレワークになったり。環境が変化して、家にいる時間が長くなりつつある今、グリーンを感じられる家づくりを目指す人が増えています。今回紹介するのも、そんな一戸建てです。内と外を土間で緩やかにつなげた開放的な暮らし。隣接する畑の風景を最大限に取り入れた間取り。さらには、家の中心で枝葉を広げるシンボルツリーのシマトネリコ。印象的な仕掛けがそろっています。写真は、内土間の様子。ワインパーティ、ギャラリー、バーベキューをはじめ、多用途に使うことを想定しています。家の中のシマトネリコと庭の植栽に囲まれ、外部と内部の中間的な雰囲気。天井は外土間の庇と同じ仕上げにしてつながりを持たせるとともに、金属面に光と緑を反射させてやわらかな印象の空間となりました。

多用途に使うことを想定した内土間
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目次:

吹き抜け、庭、隣地の緑が日々の暮らしを心地よく彩る緑をより身近にか感じられるようにこだわったポイントワインを楽しく味わえる魅せる空間に黄昏どきには天井障子が赤く染まります間取図

吹き抜け、庭、隣地の緑が日々の暮らしを心地よく彩る

湯川さんの家 大阪府 家族構成/夫30代 妻30代
設計/ユカワデザインラボ

この家のこだわりポイント

  1. シンボルツリーを家の中心にレイアウト
  2. 周辺の畑や公園を借景として取り込む
  3. 外土間から内土間へと自然につなぐ
  4. ワインパーティが楽しめる空間に
吹き抜けを貫くシンボルツリーのシマトネリコ

シンボルツリーのシマトネリコが吹き抜けを貫き、家のどこにいても緑の香りや潤いが感じられます。

細い私道に面して建つ湯川さんの家は、住宅密集地に位置し、一見すると窮屈そう。ところが玄関を開けると、光あふれる開放的な吹き抜けの大空間が広がり、シンボルツリーのシマトネリコがやさしい表情で迎えます。

「これから成長して2階の天井まで伸びるのが楽しみ。霧吹きで水をあげたり、常緑ですが葉が落ちることもあるので拾ってあげたり。様子を見ながら声をかけることも多く、家族のような、ペットのような存在です(笑)」

そう話すのは、この家の設計者でもある夫。中庭をつくるのは、敷地と建物の規模感が合わないため、あえて室内に直接植える手法を選び、暮らしのいろいろなシーンに寄り添う家の中心への配置を決めました。

計画の始まりは、この土地との出合い。東側に畑が隣接し、北側は平屋の民家の向こうに公園が広がる環境を見た瞬間、のびやかな暮らしが実現できると直感したそうです。

「周囲の緑をいかに自分の庭のように取り込むか」をテーマに、2階にリビングとダイニングキッチンを配置。一方、1階には外と中の緩衝エリアのような内土間を設け、窓の外を植栽で彩りました。

「どこを向いても緑や空が見られ、植物や土の香りがすがすがしいですね」と妻。庭木の花や紅葉、畑の作物の実りを通して四季の変化が感じられ、自然豊かな田舎で暮らしているような心地よさに包まれているようです。

敷地の東隣が畑。

住宅密集地でありながら敷地の東隣が畑。その好条件を生かして窓の配置などを計画。

吹き抜けを介して各空間がつながる開放的な間取り

吹き抜けを介して各空間がつながる開放的な間取り。シマトネリコが成長すればまた違った雰囲気になりそう。

緑をより身近にか感じられるようにこだわったポイント

POINT 1 暮らしの真ん中にシマトネリコを植樹

吹き抜けにした家の中心に土のスペースを設置

より身近に緑が感じられるよう、吹き抜けにした家の中心に土のスペースを設け、耐陰性のあるシマトネリコを植えました。メンテナンスのことを考え、すぐ横に階段を配置。

POINT 2 緑を映し出すスノコ床と金属天井

和室の前のスノコ床は2階からシンボルツリーを見通す

和室の前のスノコ床は2階からシンボルツリーを見通すと同時に、階下へ光を落とす役割も。東側の窓の外に広がる畑の緑は、金属天井にもうっすらと映し出されます。

POINT 3 好みの庭木を選んで小さな空間をはなやかに

妻の好みの植栽を施した庭

隣家の柿の木も景色として取り込む形で、カツラやカエデ、ミカン、クワなど、妻の好みの植栽を庭に施しました。高木が成長すると2階リビングからも緑が楽しめるようになります。

POINT 4 畑や庭を見通せる窓の配置や床の高さ

畑や庭を見通せる大開口の窓

東側に広がる畑の風景を取り入れるため、吹き抜けの空間を中心に大開口を設置。ダイニングからは南側の庭も眺められるよう、リビングの床をダイニングより高い位置に設計しています。

POINT 5 窓からの眺めとともにプライバシーにも配慮

ワークスペース

ワークスペースの腰窓は、立ち上がると畑が眺められ、座ると空のみが見える高さ。里道に面する勝手口はすりガラスにして、外にアカシアの鉢植えを置いて彩りを添えました。

POINT 6 キッチン正面の窓は公園の緑がアクセント

キッチンに設けた窓

キッチンに設けた窓は採光の機能だけでなく、北側の公園の風景を額縁のように切り取る目的も。日中は目の前に木々の緑が広がり、気持ちよく調理作業などができます。

POINT 7 隣の畑に刺激を受けてミニ自家菜園を開始

敷地の小さな一角で野菜づくり

家のさまざまな窓から隣接する畑を眺めているうち、「楽しそうだったので自分たちもなにかつくろうと思って」(夫)と、まずは敷地の小さな一角で野菜づくりを始めることに。

北側に配置したダイニング

ダイニングは北側に配置していますが、屋根の形状を生かした高窓から光が入り、「雨の日でもとても明るいんです」と妻。高窓の下に設けた庇は夏の南からの直射日光を遮るとともに、光を拡散させて部屋の隅々まで明るくする効果も。吹き抜け側とは、引き戸で仕切ることもできるようになっています。

リビング

(写真左)リビングの床をダイニングキッチンよりも40㎝上げることにより、ソファでくつろぎながらキッチン越しに北側の窓を彩る公園の緑が観賞できます。

(写真右)アート作品が映えるシンプルなインテリアのリビング。南側の窓をソファの高さと合わせて設計し、縁側のような空間を演出。

ワインを楽しく味わえる魅せる空間に

造作したキッチン

シナ合板とモルタル調のモールテックスで造作したキッチンは、公園の緑が眺められる窓側に配置。対面に作業カウンターを併設しています。

ダイニングキッチン

(写真左)ダイニングキッチンの窓の下のスペースを活用し、壁の構造材をフレーム代わりに露出させて飾り棚をつくりました。ポストカードや本、器をはじめ、夫妻が旅先で集めたお気に入りの小さなアートが彩ります。

(写真右)階段側からダイニングキッチンを見たときに、作業カウンターに収まるワインセラーやワイングラス棚が来訪者の目にとまるように設計。

黄昏どきには天井障子が赤く染まります

こもれる空間の和室

和室は障子をすべて閉めると、こもれる空間に。西側の高窓から入る光で天井障子が行燈のように照らし出され、黄昏どきにはほのかに赤く染まります。光の変化による微妙な陰影が楽しめるよう、壁や天井の仕上げも和紙で統一。

船底型の天井障子を引き込むと開放的な空間に

船底型の天井障子を引き込むと開放的な空間へと一転。高窓からの光が2階全体に行き渡ります。

湯川さんの家の外観

畑がある東側を頂点とした片流れ屋根と、私道に面する西側を頂点とした片流れ屋根を組み合わせたユニークなスタイル。西側にも大きな窓を設けることで、将来畑の場所にマンションが建っても光が取り入れられ、夜は街灯のない私道を家の明かりで照らす効果も。

外土間と玄関

(写真左)駐車場を兼ねた外土間。庇は畑側を深くし、玄関側へ向けて徐々に浅くしています。

(写真右)玄関を少し奥に設けて、アプローチ側にも内土間へ直接アクセスできる掃き出し窓を設置しました。

間取図

間取図

DATA

敷地面積/146.35㎡(44.35坪)
延床面積/126.38㎡(38.30坪)
1階/61.40㎡(18.61坪)
2階/64.98㎡(19.69坪)
用途地域/第1種住居地域
建ぺい率/60%
容積率/200%
構造/木造軸組工法
竣工/2019年12月

素材

[外部仕上げ]
屋根/ガルバリウム鋼板a
外壁/ガルバリウム鋼板、耐水ラワン合板
[内部仕上げ]
1階 床/モルタル、ラワン合板、ビニールタイル
壁/耐水ラワン合板、ビニールクロス
天井/ガルバリウム鋼板、ビニールクロス
2階 床/アッシュ複層フローリング、畳
壁/ビニールクロス、シナ合板+和紙
天井/ビニールクロス、ガルバリウム鋼板、シナ合板+和紙

設備

厨房機器/オリジナル、ミーレ、グローバル
衛生機器/オリジナル、サンワカンパニー、パナソニック、LIXIL
窓・サッシ/YKK AP

施工/ヴィーコ
設計/ユカワデザインラボ

撮影/芥子富吉 ※情報は「住まいの設計2021年8月号」取材時のものです