「子どもには、自然を身近に感じてほしい」「室内にいながら、戸外ののびのびとした雰囲気を味わいたい」…。そんな建主の要望をかなえた注文住宅をご紹介します。山も海も眺められる絶好のロケーションが気に入って、住まい手が購入したのは、山の斜面に擁壁を築いて造成された高低差のある敷地。一見マイナスに思える要素を逆手に取り、のびのびと子育てできる大らかな住まいを建てました。写真は、玄関からアプローチと土間を見たところ。前庭にモミジなどの樹木を植えることでプライバシーを確保。樹木の成長を考慮して設けた屋根のスリットから、木漏れ日が降り注いでいます。
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自然を身近に感じながら、ストレスなく子育てしています広い土間や吹き抜けも緑との一体感を演出戸外の緑、光、風…存分に楽しむためにこだわったポイントは?どこにいても緑を感じられて快適です日当たりがよく、冬でも昼間は暖房いらず間取図自然を身近に感じながら、ストレスなく子育てしています
呉屋さんの家 愛知県 家族構成/夫30代 妻30代 長女幼稚園児 次女幼稚園児 長男幼児
設計/鈴木貴之建築製作所
《この家のこだわりポイント》
- 大きな吹き抜けが開放的なLDK
- リビングから出られる庭
- 落ち着いた雰囲気の畳スペース
- LDKと一体化するオープンな子ども部屋
敷地南側の芝生の庭からの眺め。高低差のある敷地を大きな屋根によって包み、左手の道路側から徐々に腰壁を立てて建物へとつなげています。
左隣の住宅と同じように道路側に設けられていた高さ3mほどの石積みの擁壁を撤去。右側の擁壁の一部と車庫、左手の階段は残し、コストを軽減しつつ周囲の街並みに溶け込ませています。既存の車庫は物置として利用。
広い土間や吹き抜けも緑との一体感を演出
道路まで伸びた大屋根が印象的な呉屋さんの家。緑の小道のような階段を上ると木々が屋根を突き抜けている前庭があり、窓と腰壁で囲われた玄関土間につながります。
土間と一体化したLDKは、吹き抜けを持つ大空間。光を反射し風に揺れる天井の布も、内と外との一体感を強調しています。
「緑はもちろん、遠くに海が見えたり、飛んでいる鳥が見えたりと、室内にいても外とのつながりが感じられるので、子育てでストレスがたまりそうなときも気持ちが落ち着きます」(妻)
建物は道路面よりも高いうえ、大屋根と植栽でカバーされているので視線は気にならず、庭でも室内でも、子どもたちをのびのび遊ばせることができます。
「通勤時間が多少長くなっても、自然に囲まれた暮らしがしたい」との思いから、山の斜面を造成した敷地を購入した呉屋さん夫妻。古家が建っていた敷地には高さ3mの擁壁があり、閉鎖的な印象でした。
「普通の工務店では難しいと思ったので」(夫)と、設計を依頼された建築家の鈴木貴之さんは、道路側に築かれていた既存の擁壁を半分ほど撤去。片流れの大屋根を架けてプライバシーを確保しつつ、庭や街、風景と緩やかにつながる住まいをつくり上げました。
当初は模型を見てビックリしたという夫妻。でも、吹き抜けや仕切りのないオープンな空間など要望したことがすべて盛り込まれており、緑に囲まれた暮らしに大満足だそうです。
戸外の緑、光、風…存分に楽しむためにこだわったポイントは?
POINT 1 前庭の植栽と大屋根でプライバシーを確保
一部を残して既存の擁壁を撤去し、圧迫感をなくしつつ片流れの大屋根を架けています。
大屋根は背景の緑と調和する色に。前庭の植栽も道路からの視線をやわらげています。
POINT 2 斜面のアプローチも季節の変化を楽しむスペースに
駐車場横の階段にはグラウンドカバーにダイコンドラを配し、その上の前庭にはモミジなど季節を楽しめる樹木を配置。大屋根のおかげで、雨の日も駐車場から濡れずに家に入れます。
POINT 3 リビングから行き来できる芝生の庭
既存のクロガネモチの木を生かした南の庭は、庭石も再利用。芝生を張り、リビングから直接出て遊べるスペースに。「子どもを外に連れていかなくてもいいので助かります」と妻。
POINT 4 LDKと外部空間とを緩やかにつなぐ土間
LDKの西側に配された土間は、外と内とをつなぐ中間領域。LDKと一体の空間でありながら、腰壁によって適度に視線をカットしています。
ここは、子どものかけっこの場にも。
POINT 5 緑に囲まれたガラス張りのLDK
大きな開口部により、緑とつながるLDK。土間側には前庭の緑、正面は芝生の庭とその向こうの街並みや海まで眺められます。また、キッチンからは家全体も見渡せます。
POINT 6 床や壁などの仕上げには緑と相性のいい木を多用
夫妻の要望により、床や壁には木を使用。窓の外の緑との相性も抜群です。
壁は、部屋側から見ると木そのものの色ですが、外側は家と一体に見えるように、外壁に合わせてグレーに塗装されています。
POINT 7 2階からも吹き抜けを介して緑を堪能
「でっかいワンルームのよう」との夫の言葉どおり、吹き抜けでつながる1、2階は、大らかな空間。吹き抜けに面した2階の子ども部屋からは、1階の窓越しの緑も眺めることができます。
POINT 8 天井に吊るした布が光や風、緑の心地よさを増幅
天井には日よけなどに用いられる屋外用の布をつるすことで仕上げを省略。布に光が反射したり、風で揺らいだり、緑が映えたりと、より自然を身近に感じられます。
どこにいても緑を感じられて快適です
土間を介して外の緑を感じ、吹き抜けにより2階とも一体化するLDK。天井の布も外とのつながりを強調し、仕上げを省くことでコストダウンも実現しました。布の内側には照明を配し、配線を隠しつつ布を通したやわらかな光を伝えています。
オープンなキッチンは油跳ねを考慮して壁側にIH調理器を配置。左手の腰壁の向こうは玄関なので、買い物から帰って荷物をしまうのもスムーズ。子どもたちが帰ってきたらすぐに顔を見られます。
キッチンカウンターのダイニング側は食器などの収納に活用。子どもも自分で出し入れができます。
手前のリビングから一段下がったところに設けられた畳スペースは、扉を閉めると個室になり、シアタールームにもなる多目的な空間。子どもがおもちゃを広げて遊ぶのにも最適で、左手の畳ベンチは腰掛けても、寝ながら映画を観てもOK。
洗面・浴室やトイレなどを配した1階東側からLDKを見たところ。明るさがぐっと抑えられており、開放感あふれるLDKとのコントラストも印象的です。
東側の小さな庭を眺めながらくつろげる浴室。コンパクトな空間ですが、手前の脱衣スペースとの仕切りはカーテンのみなので広がりが感じられ、家族が一緒にお風呂タイムを楽しめます。
浴室の手前側には、広いカウンターを備えた洗面スペースを配置。左手は階段下を利用した収納になっており、奥には洗濯機も配されています。
日当たりがよく、冬でも昼間は暖房いらず
LDKとつながる2階子ども部屋と、その奥の寝室を見たところ。吹き抜け側には、3人の子どもたちが並んで勉強できる長いデスクをつくりつけ。反対側には3人それぞれのベッドなどを置くスペースとロフトが設けられています。将来はカーテンなどで仕切ることも可能。
ロフトからの眺めも抜群。左手(東側)の高窓からは隣接する公園の緑が見えます。
天井までの窓が開放感をもたらす寝室。クロゼットも扉のないオープンなスタイル。
ロフト上部の高窓から光が降り注ぐ子ども部屋は、子どもたちのお気に入りのスペース。机の落書きやロフトの壁に貼られた子どもたちの作品も、楽しい雰囲気を演出しています。
1階にいる家族との会話も可能。吹き抜けの大空間は風通しも抜群で、エアコンはLDKの1台+サーキュレーターでOK。「冬は日当たりがいいので暖かくて、昼間は暖房を使いません」と夫。
間取図
DATA
敷地面積/251.19㎡(76.12坪)
延床面積/101.57㎡(30.78坪)
1階/67.91㎡(20.58坪)
2階/33.66㎡(10.20坪)
用途地域/市街化調整区域
建ぺい率/60%
容積率/200%
構造/木造軸組工法
竣工/2017年10月
素材
[外部仕上げ]
屋根/アスファルトシングル
外壁/針葉樹合板+塗装、ガルバリウム鋼板小波
[内部仕上げ]
1階 床/フレンチパイン
壁/針葉樹合板、ラワン合板
天井/針葉樹合板、布
2階 床/チェリー
壁/針葉樹合板、ラワン合板
天井/針葉樹合板、布
設備
厨房機器/オリジナル(寿々源)
衛生機器/LIXIL
窓・サッシ/オリジナル、LIXIL
施工/豊中建設、スタジオハルガ
設計/鈴木貴之建築製作所
撮影/松井 進 ※情報は「住まいの設計2021年8月号」取材時のものです