4人家族のKさん一家は、横浜から実家のある静岡県田方郡に移り住むことを決意し、実家の近くで土地を購入。土地は大きな工場の跡地を住宅地として区画割りしたもので、周囲は新しい家ばかりという環境でした。そこで建てられたのは、自然素材を使用した温かみあふれる家。内と外に設けられた2つの庭が、暮らしに潤いを与えてくれています。
すべての画像を見る(全20枚)内と外の変化を楽しむ異なる趣の2つの庭
新居の設計を依頼した先は、妻同士が知り合いだったという建築家の水野純也さん。
「水野さんのご自宅が本当に素敵なんです。家を建てるときは絶対お願いしようと決めていました」(Kさん夫妻)。なにより自然素材を使用した端正な空間づくりに惹かれたといいます。
水野さんは、南向きの表庭と中庭の2つの庭を設けて自然を取り込みつつ、外と内との変化を楽しめる住まいを計画。周囲の建物の中でも目を引く外観。和モダンでおしゃれな印象です。
グレーの外壁に木製サッシがアクセントになった外観に、庭に植えられたシマトネリコが彩りを添えています。
芝生が張られた明るい前庭から、格子戸を開けて砂利の洗い出しで仕上げられた通り土間を抜けると、しっとりとした落ち着いた雰囲気に包まれます。
それはまるで、外から内に潜るような感覚。気持ちのスイッチがスッと切り替わるようです。
さて、通り土間の先に見えてくるのが、もうひとつの庭、中庭です。
1階から見上げてみました。中庭のシンボルツリー、ヤマボウシの枝葉が2階まで勢いよく伸びています。
四角く切り取られた空は、明るい光を室内に呼び込んでくれます。
三面の窓から庭を望む2階LDKが暮らしの中心
家の中心である2階LDKでは、表庭と中庭の両方を眺めることができるの仕掛け。
その説明をする前に、まずは2階LDKの室内をご案内しましょう。連続する垂木を表した勾配天井が特徴的な室内。床にはすっきりとしたナラの無垢材を使用。自然素材の温かみがあふれますた空間は、まるで家族を包んでいるかのよう。
「自然素材を使用すると同時に、自然をいかに取り込むかが大事です」と設計の水野さん。そこで設計により、2つの庭が三面の窓から眺められるようにしたのです。
建物は中庭を囲むようにコの字型に配されており、キッチンに立っていると正面に中庭が、左側には表庭が見えます。
もちろん、ダイニングからもリビングのソファからも庭を眺めることができるのです。キッチンは、そこで過ごすことが多い妻のために心地よさと使いやすさを追求。正面の窓には木製サッシや自然素材を多用した仕上げで、作業していてもリラックスできるそうです。
オリジナルのアイランドキッチンも、空間に合わせてデザインしました。窓側の収納はタモ材の造作ですが、キッチンはそれに色のトーンを合わせつつ、汚れや耐久性に考えて化粧合板で製作したそうです。
そんなキッチンは、仕事を持つ妻にとっても大助かり。キッチンからはリビングまで見渡せ、洗面・浴室にも近いため、子どもの様子を見ながら料理をしたり洗濯をしたりと、家事を集中して行えます。
アイランドキッチンの背部には、収納と作業スペースもたっぷり確保されています。こんなレイアウトなら家族みんなでキッチンに立つこともできますね。キッチンの奥には和室と水回りが配されました。キッチンからの動線も短いから家事効率も抜群。
キッチン近くに配された洗面室がこちら。タモ材で製作された、存在感のある美しい洗面カウンターです。2階の北側には和室を設置しました。
コンパクトながら中庭が感じられ、南北に窓があるので風通しも抜群。和室の窓の内側には、レース状の生地を張った建具を採用しました。
障子やカーテンの代わりになり、光も風も視線も適度に通すそうです。
中庭を介して家全体がひとつにつながる
寝室や子ども室を配した1階は、天井高を抑えてたことでしっとりと落ち着いた空間に。2階とはまた異なる雰囲気です。
寝室の天井高は2.2m。1階北側に配置されていますが、中庭に面した窓から明るい日差しが入ります。1階の子ども室も中庭に面しています。
現在子どもたちは、7歳、4歳とまだ小さいので、子ども室は扉のないオープンな状態。成長に合わせて、仕切って個室にする予定だそうです。
どの居室も中庭に接しているため、中庭を介して家全体がひとつにつながっているんですね。
そして1階の通り土間は、表庭と中庭をつなげる空間でもあります。通り土間の一部に物置と自転車置き場がありので、外回りの収納はこちらに。
Kさんの家には、ギュギュッと心地よさを感じる工夫が詰め込まれています。ちなみに、東京へ新幹線通勤する夫は「庭の手入れ」にはまっているそう。ヤマボウシの根元に下草を植えたり、芝生に生えた雑草を抜いたり……。今後は中庭の外壁にツタをはわせる予定だとか。
上の写真の階段のニッチを飾る花は、庭の手入れをする夫が丹精込めて育てたもの。そんな暮らしなら心にも余裕が生まれますね。
設計/水野純也建築設計事務所
撮影/目黒伸宜
※情報は「住まいの設計2016年9月号」取材時のものです