●「AIに仕事を奪われる」未来は来るのか?

スピーチ女性
2018年2月には、世界最高齢プログラマーとして国連にも招かれ、英語でスピーチも!「英語を習ったのは40代のとき。ネイティブのように話せるわけではないけれど、いくつになっても身につけた技術は役に立つものですよ」(画像提供:若宮正子さん)
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若宮さんは1935年生まれ。幼いころには戦争を経験し、戦後の復興も、高度経済成長もバブル時代も、その後の不況もずっと見てきました。

「コンピュータがどんどん進むと、やがてAIに仕事を取られちゃうんじゃないか、って心配する人もいますよね。でもね、長く歴史を見てきた私からしたら、なんにも心配いらないんじゃないかな、と思うの」

若宮さんの若いころ、女性の花形職業といえば、タイピスト、電話交換手、エレベーターガールでした。

「どの仕事も、今はもう、ほとんどないでしょ?」

機械化が進んだ当時も「機械に仕事を取られる!」「失業する!」と不安が渦巻いたそうです。

「レコード屋さん、下駄屋さん。なくなったご商売もありました。でも、女性の社会進出は進んで、もっとほかの仕事に就くようになった。新しい業種も増えた。機械化のせいで人が職にあぶれたことなんてなかったんですよ」

そんな若宮さんがこの10年、ずっと注目している国があります。
北ヨーロッパの小国、エストニア共和国です。

●「交通費を出してでも行きたかった」エストニアにはなにが?

記念写真
エストニアでのひとこま。現地の子どもたちとおばあさん方を相手に、エクセルアート(計算ソフト、エクセルを使って模様をつくる、若宮さん考案のアート)のワークショップを開催しました(画像提供:若宮正子さん)

エストニア共和国は、国土は九州の約1.23倍。電子政府で知られるIT先進国で、2007年には世界で初めて電子投票を実現しました。

「日本ではなかなかデジタル改革が進まない。その一因は、これだけの高齢社会でありながら、高齢者が生活にITを取り入れようとしないから。コンピュータは難しいもの、高価なもの、っていう考えが染みついちゃってるんでしょうね。なのに、似たような高齢社会のエストニアは電子政府といわれるほど進んでいる。その違いはなんなんだろう? と思ってね」

その答えを探るべく、若宮さんは私費を投じて現地を訪ねました。

エストニアでは15歳以上の国民すべてがIDカードをもっていて、それが銀行口座やクレジットカードなどの金融情報、医療や社会保険、納税、福祉などの公共サービスにもリンク。病院に行けばすべての科を超えてカルテが共有され、お薬も電子処方せんです。

「日本ならば『監視社会だ!』と拒否反応が出そうですが、現地の人たちに聞くと『監視されているというデメリットよりも、国に見守られているという安心感のほうが大きい』というんです。銀行情報や医療情報などの個人情報は厳しく管理されているから、その安心感もあるんでしょうね」

海外との交流が多い分、自分や自国を客観視できるようにもなりました。

「日本が物づくり大国、電子立国ともてはやされたのははるか昔。私たちが一流だと思っている大学だって、今や世界順位では40位以下。とくにデジタルの世界では、よその国にどんどん追い越されています。新型コロナのワクチンだって『日本は病院に電話で予約するんだよ』というと『へーっ? いまだに電話なの?』って言われちゃいました」

今や若宮さんの友人は日本国中はもちろん、世界各国にいるのです。