生涯でがんに罹患する確率は、2人に1人(男性65.5%、女性50.2%・
国立がん研究センターがん対策情報センター2017年の統計より)と言われています。それほど身近な病気であるにもかかわらず、日本国内ではがんの治療研究に充てられる費用はまだまだ少ないのが現状です。
がん治療の研究を応援するNPO法人「deleteC」の代表理事中島ナオさんは、31歳で乳がんが発覚し、2年半後に再発・転移、現在ステージ4の状態に。「みんなの力で、がんを治せる病気にするために」活動を続けています。
活動内容と、ご自身が描く未来について、中島さんに伺いました。
すべての画像を見る(全6枚)deleteCの活動を行う中島ナオさん。がん治療研究をもっと身近に
自身も治療を続けながら、ヘッドウェアなどのファッションアイテムのデザイン・プロデュースを中心に、現在では3ブランドを手がける中島さん。さらに、2019年2月からはがん治療研究を応援する「
deleteC」を立ち上げ活動を進めています。
deleteCは、個人、企業、組織や立場を越え、だれもがその想いを自由に意思表示するなど応援できる仕組みをつくり、1日でも早く「がんを治せる病気にする日」を手繰り寄せることに貢献している団体です。
具体的には、プロジェクトに参加する企業・団体・自治体・個人が自身のブランドロゴや商品、またはサービス名からCancerの頭文字である「C」の文字を消したり、deleteCのロゴやコンセプトカラーを使うなどし、オリジナル商品・サービスを制作・販売・提供します。
購入金額の一部はdeleteCを通じて、医療者が推進するがん治療研究に寄付します。協賛企業には国内の飲料メーカーや食品メーカー、コスメブランドも名を連ねており、普段の暮らしのなかでがん治療研究を応援できる仕組みが特徴です。
●2人に1人ががんになると言われる時代だからこそ
「私自身がさまざまな治療を続けてきて6年半がたちます。効いてくれる薬があることが、生活を支えてきてくれていますが、どの薬も効かなくなってしまうときがきます。そのたびに次の選択肢を試し続けて今があります。そして、その選択肢にも限りがあるのが現状です」
現在、がんに罹患する人の数は年間で約101万人。2人に1人ががんになる時代だと言われています。そしてがんの治療は、世界中の研究の積み重ねにより、10年前よりも5年前、5年前よりも現在と、着実に進化をしているのが現状です。「研究が進むことが、治療の選択の幅を増やすことにつながります」と中島さん。 薬の実用化を目指す治療研究(治験)の数は、日本はアメリカと比べると1000件以上の差があるのが現状です。「治療を受けていくうちにがんに関連する課題を知り、先生方にお話を伺うなかで、がん治療研究を応援する方法はないかと考えていました。がん検診の大切さは、世の中に浸透してきたと思いますが、がんを患った先にある治療研究に関しての世の中の認知度はまだまだ低く、その現状を一人でも多くの人に知ってもらいたい、がんを治せる病気にすることを目指し、がん治療研究を応援したいと思ったんです。そんな想いに共感してくれる仲間との出会いがあり、deleteCのアイデアが生まれました」
●普段の暮らしのなかで、がん治療研究を応援できる仕組みを考えて
具体的なプランは描けていなかったものの、知り合いや病院の先生に、「治療研究を応援したい」という想いを積極的に口に出し続けていた中島さん。さまざまな意見に触れる中で、叶えたいことが少しずつ鮮明になって行きました。そして、同じく代表理事を務める小国士朗さんとの出会い、会話から、deleteCのがん治療研究を応援する仕組みが誕生しました。「現在でこそ50社を超える企業さんに応援していただいてますが、立ち上げたばかりの頃は提案を断られる企業も多くて。『なぜがん治療研究への応援が必要なのか、世の中にはもっと支援すべきことがあると思います』と、断られたこともありました。がんはいまだに世界中で治療薬の研究が続けられていて、さらに誰もが罹患する可能性のある身近な病気です。治療を続けながらお仕事をされている方もいらっしゃるのではないでしょうか」
断られても、中島さんの強い意志が変わることはありませんでした。「がん治療研究を応援する私達の活動についてお話をする際に、もっとわかりやすく説明する必要があるな、と気づきがありました。“Cを消す”だけではなく“マゼンダカラーをブランドカラーとし、がんを治せる病気にしたいと意思表示するデザインアクションが、がん治療研究に繋がるという提案をしました。こうした工夫を繰り返しながら、がん治療研究の応援を呼びかけました。deleteCの取組に理解を示し、賛同してくださった方々に勇気をもらっています。感謝しかないですね」
今年の9月にはSNS投稿ががん治療研究の寄付になるをテーマに、“deleteC大作戦”のキャンペーンを実施。賛同企業の商品の“C”を消した画像や、企業の投稿をシェアする事が寄付に繋がるという取り組みで、企業から医師、スポーツ選手や個人などさまざまな人が参加してくれました。「SNSの投稿であればだれもが参加できますし、がん治療研究をより身近に感じてもらえるのではないかと思って企画しました。ちなみに毎年2月4日は、ワールドキャンサーデーという、世界でがんへの理解を深める日です。私たちも毎年、その日に先がけてdeleteC HOPEというがん治療研究に寄付をするイベントを行うことにしています。来年の1月30日には、deleteC大作戦をはじめ今年1年で集まった寄付を、今年実際にdeleteCが公募し、集まったがん治療研究のなかから選出した研究に寄付を送ります。今そのためのイベントを企画中です」
●がんを取り巻く環境に、もっと登場人物を増やしたい
中島さんが自身のプロジェクト、そしてdeleteCの活動を通じて願っているのは、「がんを取り巻く環境に、もっと登場人物を増やしたい」という思いです。「6年半前、がんであるとわかったとき、それまでの生活との変化が大きすぎて、生きづらさを感じました。私は乳がんなのですが、たとえば脱毛に対するウィッグや帽子の選択肢の狭さだったり、手術を経験した人が身につける下着の色や形が限られていたりすることも、つらい現実でした。
世の中にはさまざまなファッションが溢れていて選ぶ楽しみがあるのに、がんを取り巻く世界では、関わる人がいきなり減り、おしゃれを楽しめる機会が減るのは残念だなと思いました。ですので、この先も治療を続ける限り脱毛とはつき合わなくてはならないとわかったときに、髪の毛がもう戻ってこない私だって、なにかを我慢することなくもっと身支度を楽しみ続けたい! と強く思い、ヘッドウェア『N HEAD WEAR』の構想に至りました。
それまでファッション業界とはなんの関わりもありませんでしたが、行動し始めたことで人との出会いがあり、試行錯誤しながら進め、ブランドを立ち上げました。今では、髪の状態に関係なく、服装やシーンに合わせてデザインを選ぶ楽しさをもち続けられています。デザインに目をとめてファッションアイテムとして気に入りご購入してくださる方がいるのも、とてもうれしいことです」
マイナスに感じる変化はあったとしても、そこからなにかを始めることや、「諦めなくてもいい」と思える瞬間をもてることが、続いていく暮らしのなかで希望の種になる、と中島さんは感じています。「ファッション以外にも課題はたくさんあると感じています。病院の待合室もそう。検査や治療のための待ち時間って、すごく長いんですよ。殺伐とした病院の中でずーっと待っていると、だれだって気が滅入ってきちゃいます。ここに家具メーカーが参入してくれたら、リラクゼーションルームみたいになっていたら、足湯があったら、待ち時間だってその人それぞれの癒しの時間にもなるのに…と、妄想したりして。そこに関わる人達や関わる企業をもっと増やし、病を患ったとしても、その状態を少しでもよくし、その人なりの心地よさを見つけられるようになるといいなと思います。
それに、deleteCが叶えたい“がんを治せる病気にすること”を進めるには、限られた登場人物ではなく、みんなで力を合わせることが大事です。今、それを様々な立場の人と一緒に進められていることは、そのこと自体が私にとって希望なんだなと感じています。1人ではなにも叶えられませんから」
「がんをデザインする」を軸に、ご自身の経験、取り組んでいる活動と、たくさんのお話をしてくださった中島さん。私たちが今すぐできることとは?「関心がもてたら行動してみることだと思います。もちろん自分ができる形でいいと思うんです。この商品欲しい、と手にとることからでも、がんを治せる病気にしたい! という思いからでもいいですし、どんなことをやっているんだろう? という興味からでもいい。それが、“他人事にしない”ことなんだと思います。そして、小さかったとしてもスタートすることは、必ず叶えたいことを手繰り寄せることにつながっていくはずです。1人1人が想いを示し、行動すれば必ず、大きなパワーになる。それが、私の描く未来です」
【中島ナオさん】
1982年生まれ。デザイナー。2014年春、31歳の時に乳がんを患っていることがわかる。2017年に「hitowan」プロジェクトを始動させ、ナオカケル株式会社を設立。ヘッドウェアブランド「N HEAD WEAR」、がん治療研究を応援する「deleteC」プロジェクト、リラックスウェアブランド「Canae」を手がける。公式サイト
https://naonakajima.com/