年齢を重ねるにつれ、苦手な人が若いころよりもはっきりしてきたなんて経験はありませんか? そんなとき、どうつき合っていけば心が楽になるのでしょうか。
精神保健福祉士として、人間関係、心の不調など悩みなどさまざまな悩みを聞いてきた東亜衣子さんに、実際の例から対処法を教えてもらいました。
身近にいる「どうしても苦手な人」とのつき合い方のコツ3つ
「苦手な人」が関係の薄い人であれば、避けることはそんなに難しくありませんが、その人が、身内だったり、職場で毎日顔を合わせる部下であったりする場合、簡単に関係を断ち切るわけにはいきません。
そんなとき苦手な人との関係をどうしていけばいいのか、どうすれば心がつらくならずにすむのか、お伝えしたいと思います。
●自慢ばかりの隣人が苦手なAさんのケース
私のところに相談に来られた55歳のAさんは隣人との関係に悩んでいました。
話をすれば自慢ばかりの隣人を苦手だと思っているのに、これからもここで暮らしていくのだと思うと無視することもできず、「すごいですね~」と話を合わせているとのこと。外に出るのも話しかけられるのではないかと憂鬱になると言います。
私がAさんに伝えたのはこの3つです。
1.苦手な人にいい人だと思われなくていい2.苦手な人を好きにならなくていい
3.接触を避けてもいい
Aさんは私から見ても明るくてとても魅力的な人です。友人も多く、みんなに好かれている印象でした。私が3つのことを伝えたときに、とても驚いた口調でこう話されました。
「私、あの人にさえいい人だと思われたかったんだ…!」
●まずは、なぜ「苦手な人」が気になってしまうのかに気づくことから
苦手なものは苦手と、身内であっても部下であっても、割り切ってうまく距離をおいている人もたくさんいます。
一方で、どうして悩んでいる人がいるのかというと、その人は「苦手な人に嫌われてもかまわないと思えない人」「苦手な人にいい人だと思われたい人」だからなのです。
でも世の中にだれからでも「嫌われたい」と思っている人はいませんから、それは人として間違った感情ではないし、自然な感情であるとも言えます。まずはこの気持ちに気づくことが大切です。
私は「間違った感情ではないけれど、いい人だと思われなくていいと思うとAさんはきっと楽になりますよ」と驚いているAさんにお伝えしました。
Aさんは「苦手な人にまでいい人と思われなくてもいいものね。話しかけられたら『急いでいるの』と一度言ってみるわ」と少しすっきりした様子で相談を終えました。
●苦手な人を好きになる必要はなく、接触は最低限に
苦手な人とのつき合いに悩む方には、相手を好きになろうと無意識に努力してしまう方もいますが、苦手な人を好きになる必要もありません。人を苦手だという感情も大切な自分の感情です。無理やり押し込めたり、封じ込めたりしなくて大丈夫です。
また、苦手な人との接触は必要最低限に抑えることもおすすめしています。身内であれば、用事があるといって、誘われた3回のうち1回しか会わないとか、LINEの返事は夜にしかしないなど距離を取っていくのがいいでしょう。職場の人の場合には、仕事で必要な話以外はしなくてかまいません。
●「苦手な人」→「自分とは価値観が違う人」と視点を変えてみる
その後、Aさんが、隣人との関係が少し楽になった、聞いてくれてありがとうと報告に来てくださいました。いい人と思われなくていいというのはAさんの心をとても軽くしたようでした。外に出たときに隣人に会っても、今から娘のところに行くのよなどと言って、話さずに車に乗り込んでいると教えてくれました。
「あんなに私とは価値観が違う人にいい人と思われなくていいのよね」Aさんがそのときつぶやいた、とても印象的な言葉です。
Aさんは隣人とは価値観が違うと気づきました。違いに気づくことは違いを受け入れることにつながります。
苦手な人は自分とは違います。違いがたくさんあるから苦手だと思ったり、同じところもあるのに少しだけ違うから苦手だと思ったりします。でも自分の思いで相手を変えることはできません。
違いがあることは悪いことばかりではありません。違いから生まれるアイディアがあり、自分が常識だと思っていることも、違いを受け入れることでそうではなかったのかもと思い直すことがあります。そうして自分自身を見直す機会にもなるのです。
「苦手な人とのつきあい方」を「自分とは価値観が違う人とのつき合い方」、と少し視点を変えてみるとそれだけで少し心が軽くなっていきますよ。