旬の素材を使った毎日の料理や、時季ならではのおいしい食べ方をつぶやくツイッターアカウント、「きょうの140字ごはん」(

@140words_recipe

)を運営する文筆家の寿木(すずき)けいさん。

使いたいと思う食材や道具、そしてだれかへの贈り物は、四季に導かれるものだそう。
寿木さんから季節のあいさつに代えて、読者の皆さんへ「今日はこれを手に取ってみませんか?」とお誘いします。

自炊が増え、大量に使うようになったふきん。
それを洗うための洗濯板とシャボンが、暮らしを整えてくれたことを教えてもらいました。

たかがふきん、されどふきん。家仕事へのこだわり

洗濯板をつるす
ふきんを洗うための洗濯板。しまうときは水気をよくふいて定位置へ。冷蔵庫の側面に取りつけたフックにつるしている
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自粛生活で三度の食事を自炊するようになってから、これまでの何倍ものふきんを使うようになった。洗い終わった食器をふくだけではなく、おひつを濡れぶきしたり、食材の水分をふき取ったりと、出番が飛躍的に増えたのだ。

●1日ぶんのふきんを手で洗う

これまではふきんを「白いものチーム」にゆるく分別して洗濯機で洗っていたのだが、それもかえって面倒な気がして、これを機に洗濯板を買うことにした。

洗濯板にせっけん
幅12センチ、長さ26センチ。桜の一枚板でできた小ぶりな洗濯板

ネットで見つけたのが、桜の洗濯板だ。イメージしたのは羽子板。ふきんと台ふきを洗うくらいだから、大きなものでなくてかまわない。洗濯桶として使っている長方形のほうろうにぴったり合うサイズも気に入った。

白いふきん洗い
ミヨシの台所用せっけん。食用油脂を原料にしている。泡立ちがよく、洗い上がりはぬめりが少なく泡ぎれが早い

せっけんはドラッグストアで売られている台所ふきん用のものを使う。水で濡らしたふきんに直接こすりつけ、洗濯板にごしごしふきんを当てれば、みるみる泡立つ。たっぷりの泡にふきんをダイブさせ、じゃぶじゃぶと音を立てて洗う。

たっぷりの泡
シャボンという言葉がしっくりくる、真っ白なたっぷりの泡

波形の溝は、力をうまく分散させて汚れを落としきるように角度が計算されていて、手へのあたりも柔らかい。ひじから先を冷たい水にひたして洗う感覚は、スポーツのように爽快だ。

●不便だからこそ惹かれる

1970代生まれの私は、母が洗濯板を使っている姿がかろうじて記憶に残っている最後の世代だ。まさか数十年後に自分が洗濯板を買うことになるとは、思いもしなかった。家には乾燥機つきの最新型の洗濯機があるのだから。

しかし一方で私は、心のどこかで最新の家電と洗剤というものを信用しきれないできた。重く濡れた洗濯物をぺったんぺったんと洗濯槽に叩きつけて洗い上げる仕組みが不思議でならず、深夜に洗濯機の前に座ってじいと見続けたこともある。21世紀に入って20年もたつというのに、私は「手で洗いたい」という気持ちをずっともち続けていたのだ。

●洗濯へのこだわりで分かる人生観

下着愛好家の女友達は、ランジェリーを洗濯機で洗う人を見つけるとなかば軽蔑する。私も「信じられない」と目を丸くされたひとりだ。
友人によると、お風呂に入ったときに、下着専用の洗剤とぬるま湯で手洗いするという。脱水機なんてとんでもない。バスタオルにくるんで水分を押さえたあとは、立体的に形を整え直し、陰干しするのだそうだ。

なにを大事にしてどこに労力を割くかというこだわりは、人それぞれだ。下着の扱い方にはあまり気をつかわない私だけれど、食べ物を扱うふきんとなると、自分が納得できる方法で洗いたいという気持ちが確かにある。

無印良品のステンレスの洗濯物干し
無印良品のステンレスの洗濯物干しを愛用している

前日に使ったふきんを翌朝まとめて洗い、日当たりのいいベランダに干す。キュッキュと音がなるくらいすっきり洗い上がったふきんを、パンっと叩いてシワをのばす。

棚にふきん

ふきんは縦に三つ折りにしてから、半分に折りたたんで棚へしまう。

●水仕事と保湿は必ずセットで

手洗いは肌が荒れるかと思いきや、そんなこともない。せっけんの成分のおかげかもしれない。
とはいっても、肌を数分間無防備に水にさらすことに変わりはない。手肌をいたわるために塗っているのが、馬油だ。

薬師堂のソンバーユ NO.7
薬師堂のソンバーユ NO.7

ヘアメイクアーティストの友人がプレゼントしてくれたもので、家事がひと段落すると必ず手の甲から指先、爪の間まで塗り込んでいる。子どもの肌にも使える。ハンドクリームとして使うには一見高価だけど、少量でよくのびるので、かえってお得かもしれない。

次の食事のしたくを気持ちよくはじめるためには、清潔なふきんや、定位置に戻された鍋や食器──いちどリセットされた道具が必要だ。なまけがちな私は、家の仕事をゲーム感覚で遂行していくことで、なんとかそれらしく暮らしてきた。

毎日同じことを繰り返して暮らしをつなでいくことの難しさとおもしろさを、自粛期間をとおして改めて知ったのだった。

【寿木けい(すずきけい)】

富山県出身。文筆家、家庭料理人。著書に『

いつものごはんは、きほんの10品あればいい』(小学館刊)など。最新刊は、初めての書き下ろし随筆集『閨と厨』(CCCメディアハウス刊)。趣味は読書。好物はカキとマティーニ。 ツイッター:きょうの140字ごはん(@140words_recipe) ウェブサイト:keisuzuki.info