東京・目白で「mon Sakata」を営むデザイナー・坂田敏子さん(78歳)。夫の店である「古道具坂田」の一角から始め、現在は全国各地で企画展や展示会を行っています。「mon Sakata」のアイテムは、糸や布からこだわって選ばれ、着ている人を引き立てる、シンプルなのにひと味違うデザイン。今回は、人気なコートとカーディガンの魅力を、坂田さんにお聞きしました。

※ この記事は『いつもスタートラインにいる私 78歳、糸好き・布好き・服が好き』(KADOKAWA刊)より一部抜粋、再構成の上作成しております。

坂田さん全身
坂田敏子さん
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四角い布に筒を2つつけただけの「コート」

コートを着用している坂田さん
左:「ファイアーマンコート」を普通に着ると、こんな感じ。大きめのピンで止めて。右:上下逆さに着ると、バイカー気分。「カッコいい!」は最高の褒め言葉

四角い布に筒を2つつけただけ。この服が、「mon Sakata」にささやかな旋風を巻き起こしました。名づけて、ファイアーマンコート。「mon Sakata」の服づくりを象徴する画期的な1着です。

その日は、契約したてのアトリエに引っ越してきたばかり。気分がよくて机もなにもない床に、紙を広げてみました。はたと、思いつきました。床板の幅を物差し代わりに、迷わず引いた直線の四角いパターン。あっ、そうだ! あの布でつくれば、絶対おもしろくなるんじゃない? あの布とは、もとは電磁波遮断が目的でつくられた銅線入りの生地。平織りですが、ギュッとつかむと、形状記憶のように形を保つ性質がありました。光沢のあるメタリックな美しさ、質感のクールさ。このシンプルなデザインに合わないわけはありません。形と布のマリアージュでした。運命的な出合いでした。

コート
「ファイアーマンコート」を広げたところ

できあがりは、写真のとおり。クチャッとさせたりひねったりと、着方次第で表情がどんどん変わります。「mon Sakata」らしさが出ています。お客さまから、こんなアイデアもいただきました。「上下逆さに着ると、バイクに乗れるのよ」と。なるほど。

カラフルさに心引かれる「カーディガン」

カーディガン
スウェーデンの毛糸のニットカーディガン。「無理穴カーディガン」は20色展開。貝ボタンは不ぞろいもそのまま使用。愛らしいニュアンスが生まれている

30年位前になるだろうか、偶然スウェーデンの糸に巡り合いました。もとは織物用の素朴な風合いの糸です。弾力のある手触り、ピュアできれいな多色の色ぞろえに心引かれてつくったのが、通称「無理穴カーディガン」です。この赤から弾けました。グリーン、ブルー、イエロー、ピンクと鮮やかな色が次々に加わって、アースカラー中心だった「mon Sakata」は、カラフルな色の世界へと、シフト!

カラーニットの坂田さん
こちらは日本製のシルクとウールの糸。柔らかさと色に引かれ、タートルネックセーターに

もともと私の色の好みは、母の影響を受けています。子ども時代、女の子たちに流行っていたのはおきまりの赤や紺の服。そんななか、母が私に選んだ色は、茶色のランドセル、グレーのジャンパー、スカートはモスグリーンといった地味なものばかりでした。でも、私もそれが嫌じゃなく、むしろちょっと自慢したくなる気分。ここが、「mon Sakata」のベースカラー、カーキやグレー、茶色につながる源です。色がたくさんあると、ウキウキします。たとえば、グレーはひと色ではありません。銀ねず、葡萄ねず、利休ねず、根岸色、鈍(にび)色…。すべての色がいろいろです。生地が違えば、色のトーンやニュアンスが変わるのだから、色の世界は無限です。