看護師の仕事に自信がもてるようになったころ、医師との関係も徐々に良好に
こんな出来事もありました。
「入院している間に、離乳期になる赤ちゃんがいます。私が初めての離乳食を食べさせることになり、恐る恐るニンジンの潰したものをあげようとしたら、婦長さん(現在は師長)から『あなた、お味見はしたの?』と聞かれました。当時、日赤の看護師は『病棟に入ったら水も飲んではいけない』と言われていたのです。でも、婦長さんは『もし、離乳食がまずかったら、この子は一生、ニンジンを食べないわよ』って。『ああ、そうか』と思い、味見をしておいしいかを確認。自信をもって『おいしいから、食べてみようね』と声をかけながら、赤ちゃんに離乳食を食べさせました」
こんなふうに、患者さんと丁寧に向き合うようになると、少しずつ先生に、「この子にはこんなミルクを飲ませたほうがいい」「この子は、そろそろ離乳食を始めたほうがいい」と言えるようになりました。
「先生は病気のことは詳しいけれど、子どもたちのミルクや離乳食は毎日看護をしている私たちのほうがわかっているんです。先生も『そうだね』と納得されて、栄養科に指示を出しました。指示をするのは医師だけれど、アドバイスするのは看護師です。医師と看護師の関係も、徐々によくなったように思います」
看護によって、病気になってもその人らしく生きられるように
川嶋さんに、看護の仕事の魅力を聞いてみると、「その人の治る力を引き出せる」ことだと言います。「医師がこの人はもうダメだと言っているような場合でも、看護によって、かなり回復し、その人らしく生きることができるんです」
最先端の薬や機械を使わなくても、こよりで浣腸をして排泄を促したり、お湯で体を拭いて清潔さを保つようにしたり、ごはんがおいしく食べられるように工夫したりするだけで、症状が改善することがあります。
「でも、最近は高度医療に振り回されて、看護師が本来の看護ができない状況です。どこも手がたりなくて、看護師は本当に忙しいんです。私は、看護師が看護の力を発揮したら、病気をかなり減らせると思っています」
そんな今の看護の現状を伝えるために、講演会に出かけたり、新聞や雑誌、webの取材を受けています。多くの人が病気になっても、自分らしく生きられるように。川嶋さんの活動は、これからも続きます。