心の支えだった彼氏が音信不通に

莉子さんはがんとわかった時点で、友人たちにもオープンにし、おつき合いしていた男性にも、すぐに伝えていました。

「治療方針が決まるまで、検査が1か月ほどかかりました。早く治療しなくて大丈夫なのかとつらい待ち時間でした。彼は少し遠いところに住んでいたので、電話やSNSのやりとりが多かったのですが、悪性腫瘍の診断が出たときは最悪の体調でも会いに行きました。とても優しい人だったから、家族や友人とは別の部分で支えになってほしかったんです。なのに、手術が終わった後に音信不通になってしまって…」

手術後、体力も気力も衰えていた莉子さんは会いに行けず、連絡がこないのは彼にとんでもない重荷を背負わせてしまったからだと、自責の念が湧いたそうです。

「恋人ががんになるなんて、すごく動揺するし、つらいですよね。だから離れてしまうのも当然だったかもしれません。でも、あのときは一緒にいてくれないことがすごく悲しかった。2か月ほど経って、合鍵を返すねとメッセージを送ったら『わかった』と返事が。なんだ、とっくに終わっていたのか…とがっくりしました」

自分のがんについて必死でネット検索をしても、希少がんで情報が少なく、悪いものばかり目に入り不安は増していくばかり。支えになってほしかった彼もいなくなった莉子さんを、さらなる難関が待ち受けていました。

将来子どもを産むかどうかを今すぐ選択しなければならない

神社の鳥居の前で撮った写真
がん封じで有名な新橋の烏森神社にお参り
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「悪性ラブドイド腫瘍」に対する効果のある治療法は、まだ確立されていません。じつは、希少がんの多くで治療薬や治療法の研究開発が、予算や症例数が集まりにくいためなかなか進まないのが現状です。

手術で腎臓の腫瘍は摘出できたものの、完治を目指すために抗がん剤による治療を行うことに。

「別の希少がんで奏効した例のある3種類の抗がん剤を組み合わせた治療を半年間、6クール受けることになりました。ただ、副作用で30%の人が閉経する。つまり、将来的に子どもを産めなくなるかもしれないと聞かされました。まだ26歳で結婚も出産も現実的に考えたことはなく、彼氏にフラれたばかり。治療がうまくいって〈これから先〉があったとして、がんになった私と結婚する人がいるのか、自分も結婚したいと思うようになるのかもわからない状態なのに…」

妊娠・出産の可能性を残したければ、妊孕性(にんようせい・妊娠するために必要な力)の温存という手段があります。莉子さんの場合は抗がん剤治療の前に、健康な卵子を採取して凍結保存しておき、将来に備えるのです。

「卵子を採取するためには生理周期も関わるので、時間がかかります。抗がん剤治療はなるべく早く開始した方がいいだろうし、悩みました。がんと診断されると、多くの人が短期間で人生の重大事を選択したり、決断したりしなくてはならなくなりますが、自分が妊娠する将来を描けない状況で決断するというのは、本当に厳しかったです」