近年脚光を浴びている「タイムパフォーマンス」(略してタイパ)。かけた時間に対して得られた効果や満足感を示す言葉で、日常生活やビジネスの分野でも重要視されている考え方です。一方で、「タイパだけを意識した生活は、メンタルヘルス的に好ましくない面もある」と話すのは、うつ専門メンタルコーチの川本義巳さんです。ここでは、川本さんが考える「タイパ」との向き合い方などについて紹介します。

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「タイパ」の高さは現代社会に必須なのか?

タイムパフォーマンスのイメージ
さまざまな分野で重視されている「タイパ」(※画像はイメージです)
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近頃「タイパ」という言葉をよく見かけるようになりました。

なんのことかわからなかった私は「海外の料理?」「新しいエクササイズ?」と勝手に思っていました。ですが、最近「タイムパフォーマンスの略」だということを知りました。

確かにコストパフォーマンスのことを「コスパ」と呼びますから、タイパ=タイムパフォーマンスですね。Z世代が好んで使う言葉ということで、私にはちょっと馴染みがなかったようです。

 

タイパは「かけた時間に対する結果や満足度」を表し、短い時間で満足のいく結果やそれ以上のものが得られたら「タイパが高い」、その逆なら「タイパが低い」とされます。基本的にはコスパと同様の考え方ですね。

似たような言葉で「時短」があります。私がシステムエンジニアをしていた頃は「時短」「効率化」をいつも意識していた記憶があります。

これはビジネスの上では常識のような話ですが、ビジネス上の「時短」や「効率化」には、必ずといっていいほどIT技術が使われています。かつてITの世界は「ドックイヤー」といわれていました。これは人と犬の一生を比較して、犬の方がはるかに短いことから「それぐらい移り変わりが速い」という意味からきています。

これが現代では「ラットイヤー」になりました。ネズミの一生くらい速いという意味ですが、ネズミの寿命は2~3年ですから、人の寿命が90年とすると30~40倍近くのスピードという換算になります。

Z世代のイメージ画像

確かに30年ほど前と比較すると、今のIT技術の革新は目覚ましいものがあります。インターネットに始まり、今ではAIが日常生活にも進出してきました。これらIT技術の革新は情報伝達や意思決定のスピードも飛躍的に高めました。

 

Z世代は生まれたときから当たり前のようにこういったテクノロジーが身近に存在して、これらを容易に使いこなしていますし、新しいテクノロジーに対する順応も問題ありません。そういう意味では、Z世代は日常生活がもはや“高タイパ”であり、それに対応することが社会生活を送るための必要条件ともいえるでしょう。

 

高タイパ主義で得られるもの・失うもの

高タイパのイメージ画像

タイパを重視することで、情報の取得や伝達はかなり効率化されます。そしてそれは意思決定の迅速化にもつながります。

昔なら本屋や図書館に行かないと得られない情報が手元で瞬時に取得できます。映画館やレンタルショップに行かないと見られなかった映像コンテンツも同様です。ネットショッピングは「店舗まで移動する」という手間を省きました。こうしていろいろなことが効率化されています。タイパを追求したおかげで、私たちは「労力」を大幅に削減することができています。

 

では、こうして削減された労力はなにに置き換えられたのでしょうか? これは2つのパターンがあると考えられます。ひとつは「ゆとり」、もうひとつは「もっとタイパを向上するにはどうすればいいのか考える時間」です。

本来であれば、使わなくて済んだ時間や労力は、ゆっくりとリフレッシュする時間や、趣味などやりたかったことに時間をかけるために使いたいところです。もちろん、そうしている人も多いとは思います。

その一方でタイパを意識するあまり、常に「次のタイパアップ」を考えてしまう人もいることでしょう。もしそうなってしまったらどうでしょうか? 「ずっとなにかに追いかけられている」という気分になる人もいるかもしれません。これではもともとタイパを向上して実現させようとしたことから離れて行ってしまいます。当然ストレスも多くなりますから、メンタルヘルス的にも好ましくはありません。