●自分にも他者にも、なにも求めなくていい。ただそこにいてくれるだけで

――変に気負わずに、「そのまま」を出すことで共感を得てもらった?

吉本:はい。家にいる妻、子どもたち、犬に対して、なにか役に立つことは求めていなくて、ただ一緒に暮らして、おはよう、おやすみと言葉を交わしてくれるだけでいいと思うんです。

SNSを見てると、なにか役に立とうとしている人やコンテンツがすごくたくさん溢れていて、時短で役に立つものが求められてるように感じていたんです。なので、もう一度、人のあり方みたいなことをちょっとだけ考えられるようなものがつくりたいと思いました。

そして、自分にとって「いてくれるだけで、ありがとう」と思える存在を思い返していたときに、昔飼っていた猫のことを思い出しました。この猫は元々公園でボロボロになっていた捨て猫で、妻(当時彼女)と一緒に拾って帰りました。最初は病気もありましたが、7年近く一緒に過ごすことができて、すごく幸せな時間だったんです。

「ただそこにいただけで」
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そんな思い出と今感じているメッセージをかけ合わせて描けるものをと考えた結果、生まれたのが『ただそこにいただけで』でした。

●子どもの考えは否定したくない

――『ただそこにいただけで』では、家族や親子の姿も描かれます。吉本さんご自身もお子さんがいて、過去には育児漫画も発表されていますが、こうした「優しさ」は育児にも反映されているんですか?

吉本:とくにこれ! といった教育方針は決めてないんですけど、子どもがどんな考えを持っていても否定しないようにと思っています。

僕自身、母親からずっと「他人に迷惑さえかけなかったら、自分の好きにしい」って言われて生きてきたんです。子どもの頃はそれをずっと放任で冷たく感じていたこともあったんですけど、バンド活動してるなかでお金に困っていたときはすぐにお金を振り込んでくれたり、困ったら理由も聞かずに助けてくれたり、応援してくれるということを繰り返してもらっているうちに、それが優しさだったんだなと気づきました。

なので、子どもたちの「したい」ということはできる限り挑戦させてあげたいし、「やめたい」というなら辞めて違うことをみつけたらいいんじゃないかなと思っています。

作風につながっているかわからないですけど、それは友達や読んでくださる方々にもいい意味で「人それぞれだもんな」と思っています。なので、漫画でも感じ方がひとりひとり違うように、なにかを断定して言い切ったり、押しつけるようなことのない描き方を意識しています。

「ただそこにいただけで」

――今回の短編集『あした死のうと思ってたのに』について、どんな人にとくに読んでもらいたいと思っていますか?

吉本:この記事を読んで「あ、自分もそういうとこあるかも」って感じてくださった方には読んでもらいたいです。うまく人に頼れなくてずっと悩みをぐるぐるさせてしまうけど、本当はだれかに話したくてモヤモヤしたり、寂しさに潰されてしまいそうな人。

そんな人がこの本を読んだあとに「あの人に連絡してみようかな」って、だれかを想ってくれたらうれしいです。

あした死のうと思ってたのに

あした死のうと思ってたのに

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