●文章を読むことは、じつは複雑なプロセスを経ている

テストをする子ども
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今井:前や後ろということばは日常的に使うので、やさしいと思うかもしれませんが、じつは日常的に使うこれらのことばはとても難しいのです。

為末:言語外にある無意識の規範といいますか、みんなに共通している認識のようなものがあって、それがこういうことかなと予想がつくようになると、ことばの奥にある意味を推測できるようになるという感じでしょうか。

今井:ですね。ですから、「豊かな語彙」も単に「なんとなく知っていることばの数」が多いということではなく、「きちんと文脈に合わせたメンタルモデルをつくれる、意味を理解していることばをたくさんもっている」と考えたほうがよいと思います。
読解力というのは、文字という記号の意味を読み取るプロセスだけを指すわけではなく、その背後にある「文字列をデコード、つまり解読していって、文字から単語、文、文章の意味を構築していく一連のプロセス」がすべて大切なのです。

為末:言われてみると、文字の形を見て、意味を捉え、それを頭の中で自動変換してイメージをもつというのは、進化のプロセスでも、ある意味、不自然なことですよね?

今井:そう、すごく不自然なことなのです。
ですから、小学校の国語の授業で行われている、「ごんぎつね」を読む時の登場人物の気持ちや状況などの読み取り訓練は、氷山でいうと海面から頭が出ているごく一部分にすぎないのです。
よい読み手になるには、その氷山から頭を出している部分を下階層でがっちり支える必要があります。下階層というのは、目の動きを中心とした運動制御や単語へのアクセス、書かれている文字の中から知っている単語を認識し、脳にアクセスして語彙を引っぱってきて、書かれていることを再構築するという情報処理をシームレスに行うことです。
それらの無意識で自動的に行っている認知機能がスムーズに、自動的にできてはじめて、論理的解釈や、主人公の気持ちを読み取るなどの上位の階層にたどりつけるわけです。

●幼児期の読み聞かせが読解力を育てる

読み聞かせをする親子

為末:そういう意味でも本を読むことが大事?

今井:いちばんいいのは、小さい頃からの読書ですよね。幼児期の読み聞かせは子どもの
読解力を育てるもっとも大事な一歩となります

為末:音と文字の両方で入ってくるのがいいのでしょうか。

今井:文字を音にして単語を認識することがスラスラできず、つまずいてしまう子どもが
たくさんいます。だから子どもがひとりで読む前に、大人が音読してあげるといい。それ
は、先ほど述べた、文字をデコードすることの支援になります。お子さんには、ぜひ、本を音読してあげるといいですよ。

為末:どういう本を読んであげるといいのでしょうか?

今井:子どもが自分で読みたがったら読める本を読んであげるのが基本です。強制は絶対
しないほうがいいです。
それよりは、いちばん大事なのは、子どもが本を好きになるように、たくさん音読をし
てあげること
。それがあるかないかで、子どもの一生はものすごく大きく変わると思う。
本を読んであげることは、親が子どもにできる最大のプレゼントですね。

為末:そう思って、うちの子には読み聞かせをしたのですが、本を読まないと寝なくなっ
て、それはそれで、けっこう大変でした。でも、自分で読めるようになるまでのスピード
が一瞬でした。

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