●ボールペンが電話をかけてきた場所は…
「いまは、どこに?」
やっと声が出た。まだ半信半疑だが、ボールペンがないことは間違いない。
「いまはエジプトにいます。あ、これ知ってます? びっくりしたんですけどね、スフィンクスの視線のさきには──」
ああ、知っている。スフィンクスの視線のさきにはファーストフード店があるのだ。定番の雑学だ。テレビ番組でもその話題が出た気がするし、ネットでそういう記事も見た気がする。しかし、ボールペンからは意外な答えが待っていた。
「ふふふ、このつづきはまたこんどにしましょう。つぎの電話までのお楽しみです」
ああ、別に楽しめない。そんな先延ばしにされなくても知っている。ボールペンだから、人間の雑学の知名度を知らないのだろうか。またこんどにされてもたのしみにできない。
ボールペンからの電話は、ぷつっと切れた。
だんだんと、まるで夢から覚めたかのように意識がはっきりしてくる。いまのはなんだったのだろう。ふわふわツバメさんはなにかを確かめるようにスマートフォンを見つめた。
すこし早いが、シャワーを浴びて身支度をすることにした。家を出ると、駅前のコンビニで新しい筆記用具を買う。これで書くものがなくて焦ることはない。あの電話は、そのことを教えるための啓示だったのかもしれない。
ボールペンの電話番号は、電話帳に登録した。毎週月曜日の朝にかかってくる。こんどはラスベガスに行くらしい。
【編集部より】
ボールペンはどうやって電話しているんでしょうか?
かばんのなかでものの迷子を防ぐには、ものの定位置を決めたり、収納用のバッグインバッグを活用したりするといいと思います!
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