●食べることは生きることである

――失敗なのかもしれませんが、なんだかすごく楽しそうですね!

阿川佐和子さん
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阿川:楽しいわよ。緊急事態宣言のときも楽しかったんじゃないかな? あのときは、普段だったら時間がないからあんまりつくらないようなものに挑戦したのは事実ですね。食べたいけど出かけられないんだよな…よし、じゃあつくろう! ってことで、うちでお寿司や、鶏飯とか天ぷらとかね、つくってみました。

世の中にはそんなに食べることに興味が低い人もいるだろうし、そんなことにエネルギーを使うことをバカバカしいと思う人ももちろんいるだろうけれども、やっぱり「食べることは生きること」だと思いますよ

――そういう考えにいきついたきっかけなどはあるのでしょうか?

阿川:父がお世話になった高齢者病院の大塚宣夫先生は、イタリアに視察旅行に行ったことがあって、イタリアでは、「本人が食べる気がなくなったら死期が近い」っていう判断をするそうなんです。だから無理やり食べさせる、なんていうことは考えない。

「食べるということは生きることだ」という考え方に先生もすごく同意しているので、入院患者には「あれ食べちゃいけないこれ食べちゃいけない」っていうよりも、「最後まで食べたいと思っている気持ちは叶えさせてあげたい」とおっしゃって。

だからその病院では、お酒もOKだったんですよ。もちろん飲みすぎはダメですけど、晩酌に一杯ないと始まらないっていう人は「どうぞ、どうぞ」っていう病院でした。うちの父が亡くなったときには、ベッド周りに酒屋かっていうほど空きビンがいっぱい並んでいました。

お酒が切れると私のとこに電話がかってきて、「お前すぐワイン1本持ってきてくれ」って言うの。「いやいや、今仕事中なんですけど」って言っても、「酒の肴になるチーズも買ってこい」とかね。好きなようにわがまま言ってました。

――食事のために1日があるお父さまならではのエピソードですね。

阿川:亡くなる2日前にも「ステーキが食いたい」「マグロの刺身もいいな」って呟いてましたね。咀嚼能力も消化能力も落ちているのに、食べることにこれだけ興味があるってすさまじいことだと思って、ある意味尊敬しました

私自身はそんな、どこそこの珍味を食べたいとか、あの高いどっかに行きたいとか、一食たりともまずいものは食べたくないってほどの欲求はないけど、できれば「おいしい」っていうことを続けていたい。そのために健康でなきゃいけないし、おいしいと思える体力を保っていたいですね。

特別なことじゃなくて、たとえばもやしのサラダをつくっただけで、「私は天才か!」、「なにこのおいしさ!」って思うから。だから食べたときに「おいしい」と喜ぶ心をずっと続けていたいと思います。