美しい深紅色のスープ「ボルシチ」は、ウクライナ発祥の伝統的な家庭料理だとご存じでしたか? 普段なかなか馴染みのないウクライナ料理ですが、素朴なレシピは日本人の口にもよくあう味でびっくり! ウクライナ家庭料理のレシピ集『ウクライナの家庭料理』(パルコ出版刊)を上梓した、アップルパイとアメリカンスイーツの人気店「松之助」オーナーで料理研究家の平野顕子さんと、夫のウクライナ系アメリカ人のイーゴ・キャプションさんに、ウクライナ料理の魅力について教えてもらいました。
すべての画像を見る(全3枚)義母から教わったウクライナの本場のレシピ
東京とニューヨークを半年ずつのスパンで暮らす平野顕子さんとイーゴさんご夫婦。ニューヨークのアパートでは、イーゴさんの両親と同居する4人暮らしを送っています。
「夫の両親は、故郷ウクライナ・キーウと私たちが暮らすニューヨークを半年ずつ行き来する生活を送っていたので、ロシア侵略時にはニューヨークにいたのですが、キーウの実家は破壊されてもうなくなったらしいのですが、確認するすべもありません。親戚や知人はポーランド、ドイツやスペインなどに避難しています。心配は尽きませんし、夫や両親の心中は察するに余りあります。一日も早く、この侵略にある一定の解決がなされることを祈るばかりです」と平野さんは語ります。
●初めて食べたとき日本人が好きな味だと思った
イーゴさんの母親ニーナさんは料理が大の得意で、ニューヨークでも1日6時間近くキッチンに立ち、愛情たっぷりのウクライナ料理をつくっているそうです。英語を話せないニーナさんから、ウクライナ語を話せない平野さんがレシピを教えてもらう際、いつもイーゴさんが寄り添って根気強く通訳してくれます。料理を通じて、家族のコミュニケーションはどんどん親密になっていき、また、平野さんもウクライナのことを知るいいきっかけになったと言います。
「ウクライナ料理を初めて食べたとき、あまりのおいしさに感激し、これは日本人も好きな味だと直感しました。肥沃な土地で育つ良質な野菜をふんだんに使うウクライナ料理は、素材の味をとても大事にしています。旬の野菜や食材の持ち味を生かす、私の故郷、京都の料理とよく似ているのです」
じつは、「緑の都」と呼ばれるほど自然が豊かなキーウと京都市は姉妹都市。どちらの街も長い歴史をもつだけでなく、キーウにはドニプロ川、京都には鴨川と街中に大きな川が流れ、伝統と革新を大切にしてきた古都なのです。料理に対する感性が似ているのも必然なのかもしれません。
●「ボルシチ」は日本のみそ汁みたいな存在
ウクライナの冬はとても厳しく、だからこそ、冷えきった体を温めるスープは欠かすことのできない定番メニューです。
「おいしいスープのレシピはたくさんあるのですよ。なかでもビーツを使うウクライナ発祥のボルシチは別格で、家族全員の大好物です。義母ニーナは1週間に1回のペースで大量につくりますから、ほぼ毎日いただいています」
ボルシチは日本のみそ汁のようなものなので、冬に限らず1年中食べるのだそうです。キャプション家では、タマネギ、ニンジン、ジャガイモなどの野菜を細かく切り、それらを炒めてから煮込みます。また、ビーツは火を通しすぎると色が悪くなるため、スープづくりの最後の工程で、下ゆでしておいたビーツを加えて美しい色合いに仕上げます。
「キャプション家の場合、健康を気遣う義両親の好みでお肉は入れず、味も薄めです」
ボルシチをいただく際、欠かせないのがサワークリーム。
「アツアツのボルシチの上にひとすくいのせると、独特のコクと酸味がプラスされて、より深くておいしい味わいになりますので、くれぐれもお忘れなく!」
●ボルシチ
材料(つくりやすい分量)
- ビーツ 大1個
- ニンニク(薄切り) 2片
- タマネギ(細切り) 1個
- ニンジン(細切り) 大1個
- ジャガイモ 1個
- サラダ油 適量
- 水 800ml
- チキンブイヨンのもと 1個
- ローリエ 3~4枚
- キャベツ(細切り) 1/8個
- トマトペースト 85g
- 塩、黒コショウ 各適量
- サワークリーム 適量
- お好みでディル、パセリ(みじん切り) 各適量
【つくり方】
(下準備)ジャガイモは短冊切りにし、15分ほど水に浸す。
(1) ビーツは根の先端と茎を切り落とし、やわらかくなるまで500~600mlの湯で30分ほどゆでる。ゆで終わったら、弱めの流水にあて、皮をむいて8mm幅の細切りにする。
(2) フライパンにサラダ油をひいて弱中火にかけ、ニンニクを炒める。香りが立ってきたら中火にし、タマネギ、ニンジン、ジャガイモをさっと炒める。
(3) 鍋に水、チキンブイヨンのもと、ローリエ、(2)を入れて中火にかけ、ジャガイモに火がとおるまで煮る。(1)、キャベツ、トマトペーストを加えてさっと煮て、塩、黒コショウで味をととのえる。
(4) 器に盛り、サワークリームをのせる。お好みでディルやパセリをちらしても。