グラフィックデザイナーの西出弥加さんと訪問介護の仕事をする光さんは、ともに発達障害という共通点があります。妻はASD(自閉スペクトラム症)、夫はADHD(注意欠如・多動症)の特性をもち、お互いに助け合いながら暮らしています。今回は、2人がもつ「恋愛感情」についてつづってくれました。
すべての画像を見る(全3枚)発達障害夫婦がお互いにもっている恋愛への感情
夫の光くんは、私の父に初めて会ったとき「僕は弥加さんに対して恋愛感情をもっていません」とサラっと話したことがあります。父は「そういうことは結婚相手の父親に初対面で言わないほうが…」と笑っていましたが、じつは私はこの話をあとから聞き、うれしく感じていたのです。今回はそんな私たちの「恋愛感情」についてお話したいと思います。
●恋愛感情=結婚ではない
大半の方が父のように、恋愛感情が最初に来て後から結婚するものだと思っていたようですが、私にはその価値観はないです。では、私にも恋愛感情がないのかというと、そんなことはありません。ただ、「大半の人がもつ恋愛感情」と「私がもつ恋愛感情」が合致しないのです。私にとっての恋愛感情は家族愛に似ているのです。そして、夫の光くん自身は、だれに対しても恋愛感情というものが薄いタイプだったのです。
だからと言って、夫の冒頭の言葉にショックを受けるわけでもなく、むしろ救われました。なぜなら、恋愛感情ほど怖いものはないと思ってきたからです。
これまでの恋愛経験において、その恋愛感情とは波が大きく、自分にとっては苦痛なものとなる場面が多かったのです。私自身はもう少し家族愛に近い、深い関係を築きたいので、ここが合致するととてもうまくいくのですが、合致しないとすぐに別れることになってしまいました。そして異性からはつき合えないとわかった後に、行為が裏返って恨みとして返ってくることがありました。
●恋愛がトラウマになったことも
理不尽な好意からの執拗な行動はイジメと同じに近いと思っています。幼少期から、そのような理不尽な好意の押しつけで、トラウマが増えて、性格も変わってしまいました。
私がなぜここまで相手の強い好意に答えることができないのかというと、IQ(知能指数)と比べてEQ(心の知能指数)が低い部分があるからです。自分とまったく異なる恋愛感情を向けられると、自閉症の気質が強く出て、フリーズしてしまうのです。
つまり、大切な人に、責められるような感情を連続的に向けられることがつらいです。例えば嫉妬や束縛などがそうです。私が考える恋愛感情とは、「相手のすべてを許すこと」なのに、大半がいう恋愛感情は「許さないこと」のような気がして、人がどこでどう怒るのかがわからず、混乱してしまうのです。そんなわけで、価値観が合致しない場合、私は恋愛というものが怖く感じることが多かったです。
●夫は私の恋愛観を言わなくても理解してくれた
この自分の感覚を説明せずともわかってくれたのが光くんだったので、結婚してからも良好な関係が続いているのだと思っています。なぜなら光くんは「恋愛感情をもっていない」ので、波もなくずっとやさしく受け止めてくれて、生活が安定しています。
「夫は恋愛感情がない」という表現をこれまでしてきましたが、光くんにも潔癖なまでの愛はあると思います。彼なりの愛情の形があるので、私はそれを受け取りたいです。
光くんに出会った頃、つい元恋人の話をしてしまったことがあり、その瞬間「普通の人ならここで怒るだろう」と思い、撤回しようと思ったのですが、「いい話で、泣けるね」と言ってくれました。そうなのです、彼には嫉妬という気持ちがないのです。そのとき、この人なら自分のすべてを受け入れて許してくれると思い、安心したことを覚えています。
自分が結婚して4年目、光くんといて一度もフリーズしないでストレスがなかった理由は、こちらが理解できない感情を責めたてられるように向けられることがなかったからです。
もちろん、EQが高めの人であれば、自分と違う価値観や感情を向けられたときに私のようにフリーズすることもないと思います。その人自身の恋愛感情のカタチをこちらに向けられることは悪いことではないのですが、私がどうしてもそこに理解ができないので、申し分けなくなってしまうだけなのです。
この価値観が一緒で、かつ相性がよかったからこそ、夫とは一緒にいられるんだと思います。今、私の周りにいてくれる方々は近しい価値観で、自分を許容してくれるので、本当に助かっているし、恵まれていると感じます。