建築コミュニケーターとして活動しながら、無料のコーヒー屋台を出したり、家事室を設けた喫茶店を運営したり。田中元子さんは、街にさまざまな「場」づくりをしています。そんな田中さんと、時事YouTube・たかまつななさんが「住み続けられるまちづくり」について語り合いました。

たかまつななさんと田中元子さん
時事YouTuberのたかまつななさん(左)と建築コミュニケーターの田中元子さん(右)
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人間と向き合う街や建築は楽しい

たかまつ:小さな屋台で道ゆく人に無料でコーヒーをふるまったり、洗濯機・乾燥機を備えたカフェ「喫茶ランドリー」を運営したり、街角にベンチを設置する活動をしたり。田中さんの取り組みはどれもとてもおもしろいです。

田中:やり散らかしている感はありますが(笑)、伝えたいことは一貫していて、建築や街の持つ可能性なんですね。こんなに楽しいことができるんだって。
それを知っただれかが、なにかを始めるきっかけになればもっとうれしい。

たかまつ:どのプロジェクトも、根っこには「街のコミュニティづくり」があります。そこに田中さんが関心を持ったのはどうしてですか?

田中:人が好きなんだと思われがちですが、自分ではよくわかりません。ただ、街で見知らぬ人と接したとき、ぼんやりとしていた「社会」に触れた手応えを感じるんです。
道端で肩が触れて、笑顔で「ごめんね」って返してもらえると、今日1日超ハッピー。知らない人の一面を垣間見るのが好きなんでしょうね。

たかまつ:私の中では建築と人々が交流する場づくりは結びついていませんでした。でも、建築を通して人が集う空間が生まれ、活気づく。そんな可能性を知って驚きましたし感動しました。

 

喫茶ランドリー
「喫茶ランドリー」は2018年に東京・墨田区の住宅街にオープン(写真/阿部太一)

田中:たとえば、喫茶ランドリーは「いろんな人が来ていい場所だよ」と言いたくて洗濯機を置いているんです。昔の井戸端のような自然に生まれるコミュニティの場所が失われているなか、なにかできないかなって。

たかまつ:私、コインランドリーの利用にためらいがあるんです。盗まれちゃうんじゃないかとか、ひとりで待つのは怖いなとか。でも、喫茶ランドリーのスタイルなら、温かみがあって誰もが行きやすい。利用する人の気持ちや行動が考え抜かれていますよね。

田中:街も建築も、人間と向き合うような関係でつくられれば持続可能になる。というか、楽しいじゃないですか。

たかまつ:楽しさは田中さんの手がけるプロジェクトすべてに通じています。

田中:喫茶ランドリーっていってしまえば、私設の公民館なんです。日本の公民館って、一部の人にしか使われていない。公園とか公民館とか「公」と名のつくものが、この国ではニッチな存在になってしまっているのが残念で。

たかまつ:ここ数か月、主権者教育の取材でよくイギリスを訪れているんですが、公園など外で食事をする文化がありますよね。日本と違って、街が公の場として開かれていると感じます。

田中:公民館っていろいろな人が、それぞれ自分自身がしたいことをし、自分が自分だなって感じられる時間を過ごす場所のはずなんです。イギリスの公民館ってどうですか?

たかまつ:公民館の取材までは、できていないのですが(笑)。

田中:そうですよね。唐突でした(笑)。

たかまつ:ただ、イギリスで感じるのは、市民に市民としての実感が確かにあるということです。みんなで社会をつくるという意識があり、だからこそチャリティ文化も根づいている。
一方、日本人は個人として生き、街に愛着もないし、コミュニティに所属しているという感覚も薄い。国民性の違いやゆとりのなさもあるのでしょうけど。

田中:自分で公民館をつくろうと決めたとき、老若男女が当たり前に居合わせる空間にしたいと思ったんです。
日本は「30代女子のためのカフェ」とか縦割りにしがちで、ビジネスはしやすい。でも、自分がいやすい空間にばかり触れていると、いろんな人の存在を想像する力が失われてしまう。それはとても不自然で不健康だから。

たかまつ:今はネット上で仲間を集めてコミュニティをつくることはできます。でも、街に地域の人が集まれる場があることも大事ですよね。困っている人への想像力が働き、自分になにができるのか、思いをはせることができる。