困った私は、生まれて初めて質屋さんに行き、婚約指輪を売って20万円のお金をつくりました。ほっと胸をなでおろしたものの、心のなかには不安が渦巻いていました。下の子の入学費用はどうする? もしも私が病気にでもなったらどうなる? こんな状態ではダメだ、もっと収入を増やすことを考えよう。

●学費の支払い期日が近づくと夫が音信不通に…

収入を増やすには、単価のいい仕事に就くか、仕事量を増やすか。私にとって手っ取り早いのは仕事を増やすことだった。それで、日中の給食の仕事のあと、17時から23時半までスーパーでお総菜をつくる仕事を始めたのです。週に5日朝から夜中まで立ちっ放し。きついなんてものじゃなかった。やがて毛細血管が両脚に浮き上がり、むくみがとれなくなり、体がだるくなってきて…。結局、辞めるしかなくなってしまいました。

それでも1年くらいは続いたのかな。この時期に、10万円にも満たないけれども貯金をすることができました。「大学の推薦がとれたよ」と長男が言ってきたのは高2の冬でした。
建築の仕事に就きたいという夢をなんとかかなえてやりたい。でも、先立つものがありません。「お父さんが助けてくれるかもしれないよ」。離婚後、一度も会っていない元夫の顔がちらつきます。血を分けた子どもの願いだもの、きっと聞き入れてくれるはず。私が話すよりも、長男が自分で頼んだ方がいいと考え、長男ひとりで父親に会いに行かせました。

顔を紅潮させた長男から「出してくれるって! お父さん、『がんばれ』って言ってくれた」と報告を受けたときは、心底ホッとして泣けてきました。長男は、その後、父親と電話で何度かやりとりをしていました。ところが、学費の支払い期日が近づくと連絡が取れなくなり、最後にはなんとケータイの番号を変えてしまったのです。

「仕方がないよ」と言う長男の落胆というより、諦めきったような表情。「奨学金をいくつか借りるという手もあるよ」という私の言葉に頷いていましたが、その後担任の先生とも相談をし、彼が出した答えは、推薦を辞退し、学費の少なくてすむ専門学校に進学することでした。奨学金の返済金額を計算し、とても無理だと考えたようです。長男は目下、就職活動の真っ最中。学校に関わる費用は、奨学金と学資保険と4つのバイトのかけもちでまかなってきました。きっとこの子は大丈夫。そう信じています。

私の仕事にも変化がありました。調理師免許を取得すれば、社員になれる道があることを知り、昨年、一念発起して独学で免許を取得。今年から正社員として働いています。来年下の子が高校に入りますが、なんとかやっていけそうです。
離婚から10年、その日を過ごすことで精いっぱいでしたが、ようやくもっと先を見ることができるようになりました。さあ、これからは私の老後に向けて蓄えなくては。

シングルマザーになるにあたってチェックしておきたいお金のこと

背中を向けた男女のイラスト
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今回の吉田さんのエピソードにまつわるお金の制度に関して、ファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんと、弁護士の比留田薫さんに解説してもらいます。

●養育費

離婚しても親には未成年の子どもを扶養する義務があり、子どもは養育費を受け取る権利があります。金額に法的な規定はありませんが、裁判官らが作成した算定表を基に、父母の収入や生活レベルなどにじて話し合いで決めます。

支払い方法は、話し合いで決めた期日までに、毎月一定額を金融機関に振り込むのが一般的。子どもを引き取って育てているシングルマザーなら、元夫に当然請求すべきものですが、現実には養育費を受け取っていない人の方が圧倒的に多く、最後までもらえている人は全体の2割程度にすぎません。

「支払いが長期に及べば、状況も変わってきます。たとえば相手が再婚したら、それまで受け取れていたものも受け取れなくなる可能性が大。たとえ減額になっても、離婚時にもらえるだけもらってしまうことをおすすめします」(畠中さん)
また、不払いのトラブルを防ぐためには「取り決めを公正証書に残しておくことが大切です」(比留田さん)

●奨学金

奨学金とは、経済的な余裕がなく進学が困難な学生を対象に、お金を貸与または給付する制度。ただ、その種類や選び方はさまざまなので、事前の情報収集が欠かせません。
畠中さんのおすすめは、日本学生支援機構のホームページにある返済シミュレーションを親子でやってみること。

「貸与型の奨学金を借りるということは、子どもに借金を押しつけること。高校2年になれば進路も決まり、学費を見積もることができます。その時点で、これだけ借りたら、卒業後何年に渡っていくらずつ返すことになるのかをチェックしましょう。子どもと一緒にプランニングするのは親の義務です」(畠中さん)

●母子世帯におすすめの奨学金制度

・給付型奨学金制度

返済の必要がない奨学金のこと。大学や高校独自のもの、自治体や企業などが主宰となっているものなどがあります。複数の団体から受けることも可能。日本学生支援機構の奨学金は、卒業後に返還する貸与型」が原則でしたが、返還の必要のない「給付型」も創設されました。

・入学時特別増額奨学金

日本学生支援機構が、月々の奨学金とは別に入学時に1回きりで貸与する奨学金。貸与金額は10万円〜50万円。基本は「国の教育ローン」を申し込んだが、不採用になった場合に利用できる制度。ただし、学前の貸与ではないので、この奨学金と連動した労働金庫の前借り制度「入学時必要資金融資」を利用すると、入学前の支払いに間に合わせられます。

・受験生チャレンジ支援貸付事業

受験対策の塾の費用や受験費用を無利子で貸与し、合格すると返済が免除される東京都独自の制度。親の経済力で子どもの教育機会に格差が生じることを防ぐことを狙った制度で、所得には上限がありま。制度を利用できる学年は、中学3年生、高校3年生、高校中途退学者、浪人生など。高校3年生の場合、塾代の上限は20万、受験料の上限は8万円。