●コロナで断念することになった世界への旅。でも命より大切なことはない
――せっかくの世界一周旅行がまさかのコロナで予定より早く終わってしまったのは心残りはありませんか?
もちろんまだまだ行きたいところはあったし、日本一周もしてみたかったです。でも、旅って思い通りにいかないことも多いので、こういうことも想定外の事態もあるって割りきっている自分もいます。
コロナで旅が強制終了されてしまったぶん、旅の思い出はコロナによる世間の混乱がいちばん強烈でした。夫婦ともに生まれて初めて露骨な差別というものを身をもって体験したから。
中国人と間違えられて差別を受けたときは、「私は中国人じゃないし!」って抵抗感はあったものの、自分自身も中国人の旅行客を見かけると、「まだ旅行してるの? 早く国に帰ればいいのに」って思ったりして、自分が差別を受けると同時に、自分自身も差別する気持ちを持っているんじゃないかとハッと気づくこともありました。
複雑な状況の中、多くのことに気づけただけでも貴重な経験だったと思います。
――旅を通じて、夫婦間での変化はありましたか?
私たちの場合いわゆる貧乏旅で、1日500円の宿とかを回っていたので、そんなにキラキラした旅行って感じではないんです。持ち物もお互い一つずつのリュックだけ。3着くらいの服を手で洗濯しながら着まわしていました。日本とは違って衛生面ではやっぱり無理って思う人も多数いるでしょうけど、私たちは慣れてしまいました。
言葉の壁があったり、予想外のトラブルが生じたりして、夫婦間でのひどい喧嘩はしょっちゅうしていました。でも、それを乗り越えていくたびに、お互いに「思いやり」や「妥協」を覚えたと思います。
あとは、電車の切符もスムーズに買えないのが当たり前の海外で、物事って思い通りにいかないことを知った分、気も長くなりましたね(笑)。
――こういう危機的状況で、「コロナ離婚」というキーワードもありますが、その心配はなさそうですね。
お互い頑固者でもともと喧嘩も多かったので、夫も旅を通じて相性が合わなければ離婚するのかなと心配になっていたみたいなんですが、それを乗り越えてきたので、旅を経験した今となっては「結婚してよかった」と夫は思ってくれているみたいです。言いたいことをため込まず伝えることも大事だってわかったし、絆は深まったと思います。世界での「あの怖さ」をお互いに体験した今となっては、なんとかやっていけるような気がしています。
――日本も緊急事態宣言が出て、しばらくは張り詰めなければいけない状況が続くと思いますが、今後のことはどうお考えですか?
今回の旅行資金は250万だったんですが、使った金額は120万円ほど。かなり安く抑えられたので、しばらくはやっていけるかな…と考えています。コロナに対してはとくに憎んでいることもないです。プラスに考えると、旅に集中していたぶん、夫が腰を据えて料理する時間をもてなかったから、この自粛期間中を料理のリハビリの時間にじっくりあてられると。もちろん、経済的面の不安は考えたら尽きませんが、まずは夫婦が無事に帰ってこられたことに感謝をしながら今後のことを考えていきたいです。
<取材/ESSEonline編集部 写真/Mさん提供>