「このときばかりは完全に感情のコントロールを失ってしまいました。とくに夫にはつらく当たって、随分迷惑をかけました。でも、夫は『君は運がいい。早期発見できたんだから』と言うんです。ステージ4の舌がんからも生還できた。だから、今回もきっと運が味方をしてくれる、と」

事実、食道にできた腫瘍は、悪性とはいえステージ0。2019年4月に手術を受け、「がんはすべて取り除くことができたので、追加治療も外科手術も必要なし」と告げられました。

「今回もまた、生かされた。ならば、これからもなにがあっても自分を信じて、運を味方にしながら歩いていこうと思いました」

もっとも、何度も病気から立ち直ってこられたのは、家族の支えがあったからだと語ります。

「なにがあっても『君は運がいい』としか言わない夫(笑)。そう言われると、本当にそうかもと思えて力が湧いてくるんですよね。そして彼は、がんを克服するにはどうすればいいのか、なにが必要なのかを考え、調べて、打てる手はすべて打ってくれました。夫がそばにいてくれなかったら、私は今、ここにいないと思います」

そして、7人の子どもたち。離れて暮らしている子どもたちも、堀さんの病気がわかると、家事を手伝ってくれるなど物理的なことだけでなく、精神的にもフォローしてくれたのだとか。

1日1ページ日記
長女から贈られた「1日1ページ日記」にはだれにも言えなかった胸の内がびっしり。日記は今も続けているそう
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「それも、私にあまり負担を感じさせないように、さりげなく。たとえば、長女は『思いをすべてを吐き出せる場所があったらいいなと思って。私も書くから、見せ合いっこしよう』と日記帳をプレゼントしてくれました。おかげで、夫にも言えないつらさや苦しみを、書くことで乗り越えられたんです」

●今度は私から、ギフトをお贈りしたい

ものの感じ方や見え方も、以前とは大きく変わったそうです。

「五感が研ぎ澄まされたのでしょうか。朝いちばんに吸う空気のおいしさ、お日まの暖かさ、空を流れる雲の形…。これまで気づけなかった自然の美しさやはかなさに感動している自分がいて。私は新しく生まれ変わったんだ、とさえ思えてくるんです」

堀さんは、こうした気づきや変化をがんからの贈り物、“キャンサー・ギフト”として大切にしていきたいと語ります。

「今まさに、がんをはじめ苦しい病気と闘っている方、そしてそのご家族は『病気になってよかった』『がんからギフトをもらった』なんて到底、思えないでしょう。私もそう思っていました。でも、だからこそ、病気を通じて得られるものもあるということ、新たに生まれ変わった先にはすばらしい世界が広がっていることを伝えたいと思っています」

多くのキャンサー・ギフトをもらったお返しに、今度は自分もギフトを贈りたい。それにはまず、自分の経験から得た情報や知識を発信していくことが必要なのではないかと、堀さんは考えています。

「たとえば『口内炎が2週間治らなかったら、悪性腫瘍の可能性がある』という情報を、実感をもってお伝えすることができるのではないか。また、がんと闘っている方には、『諦めなくていいんだ』と希望をもっていただけたら。やるべきことはたくさんあるような気がしています」

そして、歌手として復活して、支えてくださった皆さんに恩返しをしたい。そう考えてボイストレーニングも再開しました。

「きっと元のようには歌えないでしょう。でも、今の私だからこそ歌える歌があるはず。どうか皆さん、私が再びステージに立つ日まで、見守っていてくださいね」

堀さんの著書

『Stage For~』

(扶桑社刊)は、闘病の日々やステージ復帰への思いを明かした一冊。こちらもぜひチェックを。

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【堀ちえみさん】

1967年、大阪府堺市生まれ。81年、第6回ホリプロタレントスカウトキャラバン優勝をきっかけに芸能界へ。『潮風の少女/メルシ・ボク』でアイドル歌手デビュー。以来、女優やタレントとして、テレビや雑誌で幅広く活躍している。闘病についてつづった

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