2018年に国立成育医療研究センターは「おととしまでの過去2年間で、産後1年以内に亡くなった女性の死因第1位は自殺で92名」という衝撃的なデータを発表しました。
「うつ専門メンタルコーチ」として、1万人以上のクライアントを指導し、
(扶桑社刊)などの著書もある川本義巳さんも、「産後のメンタル不調に悩む女性からの相談を受けることがよくあります」と話します。
ここでは川本さんが接した恵子さん(仮名・28歳)のエピソードを教えていただきました。
すべての画像を見る(全2枚)慣れない土地で「アウェイ育児」。夫に不満もぶつけられず…
恵子さんは大学を卒業後、大手企業で働いていましたが、26歳のときに大学時代から交際していた相手と結婚。1年後に妊娠がわかり、専業主婦となりました。
するとほぼ同時期に、商社勤めの夫に地方への栄転が決まります。忙しい夫に代わり、身重の恵子さんが転勤の準備をすることになりました。
幸い双方の両親が手伝ってくれたこともあり、「ものすごく大変」という感覚はありませんでした。
●慢性的な睡眠不足。イライラもつのり…
無事引越しも終わり、初めての土地での新生活もスタート。待望の赤ちゃんも生まれ、恵子さんに「母親」という新しい役割も始まりましたが、子育ては想像していた以上に大変でした。
24時間体制で赤ちゃんのお世話をする毎日。夜泣きをすると、疲れて寝ている夫の迷惑にならないように、そっと別の部屋で泣きやむまであやし続けるのが日課のようになりました。
当然、慢性的な睡眠不足です。加えて産後の体調の変化もあり、イライラすることや思うようにいかないことも増えました。
夫に「手伝ってほしい」という思いはありましたが、仕事で朝早くから夜遅くまでがんばっているから…と言えませんでした。でも休日にくつろいでいる姿を見ると「私は休みなくやっているのに」と怒りを覚えることも。
「親もきょうだいも友達もいない土地で、毎日たった一人で子どもと向き合っている。子どもは確かにかわいいけど、こちらの都合はお構いなしに要求してくる。私がやらないとこの子は生きていけない。だからがんばらないといけない。手伝ってほしいと思うけど、夫も仕事が大変だし、親を呼ぶわけにはいかない…」恵子さんの頭の中は、このことでいっぱいに。
そんな日々が続いたある日の午後、いつものように洗濯物をたたみながら、恵子さんは昔のことを思い出していました。
「学生のころも、社会人になってからも、私はやりたいことは全部やってきたし、仕事もそつなくこなしてきた。なのに今は、本当にできないことばかりだ。育児もうまくこなせると思っていた。でもできない。私はもうなにもできなくなってしまったのかもしれない…」
気がつけば涙があふれてとまらなくなっていました。恵子さんの心は壊れる寸前だったのです。