●まじめで空気を読む人ほどひきこもりになってしまう

本来のひきこもりは、社会的支援が必要なパターンが多く、ネットを見る精神状態ですらないようですが、専業主婦の場合はこのようになかなか表面化しにくいのが現実です。このK子さんのケースを、藤田さんはこう分析します。

「ひきこもりになる人は、往々にしてまじめで優秀で、まわりの空気をちゃんと読む人が多いのが僕の印象です。そのため、夫やまわりに『白』と言われれば『白』になるように努力し、そうなれないと自分を責めてしまいます。このK子さんが該当するかはわかりませんが、家族が『妻は夫より仕事をセーブして当然だ』『家のことをするのは妻の役割』『女は子を産んでこそ幸せ』といった価値観をもっていると、それにしばられて、そうでない自分を卑下(ひげ)してしまう。それが悪化して抑うつ状態になり、本格的にひきこもりになってしまう。そうした女性は、僕が相談を受けたり調査をしたりする過程で、じつに多く見られました。

ベッドにスマホ
ひきこもりは、いつだれがなる可能性もあります(※写真はイメージです)
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また、夫から身体的DVや、モラルハラスメントなどの精神的DVを受けている場合、友だちと会うことはおろか外出自体を制限され、自分の意志とは関係なく引きこもりの状態になってしまうケースも聞きます。そうなると、だれかに相談したくても、相談に行くことすらはばかられてしまいます」

このように夫の支配下にある女性は、「夫の言うことは正しい」「夫の言うことを聞いておかないと生きられない」という夫との力関係に支配されています。そのため、夫に「家事もロクにしないで遊びに出るとは何事だ!」と言われれば、出かけられなくなってしまうのです。

●ひきこもりはだれがいつなってもおかしくない。だからこそ持ちたい「3つの備え」

八方塞がりな状態を脱するには、少しずつ、社会との関わりをもつようにすること。

「まず、自分と同じ思いをもっている人の集まりに参加することから始めましょう。経験を語り合う場所をもつことで、自分の気持ちがラクになります。あるいは、同じ趣味を共有する仲間と会うのもいいでしょう。僕が見てきたケースでは、多くの人がゲームや同人誌などの仲間の存在が、回復する大きな要因になっていました」

ただし、それにはある程度の金銭が必要です。

「そうした場所に継続的に行くには、参加費や交通費がかかります。そう考えると、経済的に余裕があり、集まりに高頻度で行ける人ほどひきこもりが長期化しにくいのが現実です。裏を返せば、経済的に弱い立場にある人は、ひきこもりが深刻化しやすい傾向にあります。

長期化すると、うつなどの精神疾患になりやすくなります。とくに専業主婦の場合、夫や子どもとの間で関係性が悪化すると、逃げ場がなくなります。本人を理解する場所が、内にも外にもない。それはかなり危険な状態です」

ひきこもり回復にわずかながらも資金が必要となると、夫に経済的に依存している妻、あるいは夫から小遣いを渡されないなど「経済的DV」を受けている妻ほど、深刻です。つまり、今、出産を経て子育てに追われ、仕事をセーブしている妻、そして夫に経済面で頼りきっている妻は要注意だと言います。

「職場やママ友との対人関係など、なにかのきっかけで、自分の中の『ガマンのコップ』があふれてしまい、ひきこもりになってしまう。これは、だれにでもあること」と、藤田さんは強調します。

自分がいつ当事者になってもおかしくないという「当事者意識」が大事です。仮にそうなったとき、早期回復のための「資金」をもつこと。「多様な居場所」を今からもっておくこと。ひきこもりを防ぐために、この3つの備えを心にとめておきましょう。