中高年層の「ひきこもり」が年々社会問題になっています。2018年の内閣府調査では、40歳から64歳までの中高年層のひきこもりは推計値で61.3万人。男女比は男性7:女性3となっていますが、「女性については可視化されていないだけ」と語るのは、
『中高年ひきこもり―社会問題を背負わされた人たち―』(扶桑社刊)などの著作がある、NPO法人ほっとプラス代表理事・藤田孝典さん。
じつは、この可視化されていない層に専業主婦が潜んでいるというのです。詳しくお話を聞きました。
すべての画像を見る(全3枚)実態が見えにくい専業主婦のひきこもりの実態。対人関係の悩みが引き金に
藤田さんは、「家の中にいて介護や家事を担っている女性はカウントされないだけで、実感として、潜在的には主婦のひきこもりは少なくないのでは」と見ています。そもそも、ひきこもりの定義はなんでしょうか。
「専門家によって定義は若干異なりますが、広義でいえば、『6か月以上にわたり、おおむね家庭にとどまり続け、社会との関わりを極力避ける状態』と言われています。また、ひきこもりになる理由・原因は複合的なものですが、引き金となるのは、職場のパワハラやセクハラ、対人関係の悩みが多いです。こうした事例は、男女関係ありません。むしろ、ハラスメントは非正規雇用で働く立場の弱い女性こそ多いはず」
職場にかかわらず、人間関係におけるトラウマ体験から、人と関わることを避け、ひきこもってしまうことも多いと言います。
●不妊治療に専念するため外資系企業を退職。専業主婦になり社会とのかかわりを遮断
ここでは、労働問題や対人関係とは別に、女性特有の「生きづらさ」を抱え、ひきこもってしまったK子さんという女性に話を聞きました。
専業主婦のK子さん(44歳)は、学生時代から明るく気遣い上手で、周りには友人が絶えませんでした。大学卒業後は外資系の保険会社で営業ウーマンとして華々しく活躍。やりがいをもって働いた末、40歳で結婚します。
しかし同時期に始めた不妊治療により仕事との両立が困難に。医師が指定する日時にクリニックに行かなければならないことで会社に迷惑がかかることが心苦しく、治療に専念するために断腸の思いでキャリアを手放し退職しました。
それから4年たった今、K子さんは別人のように気力がなくなり、スーパーなど日常の買い出し以外は、ほとんど外出せず、友人知人と会うこともなくなりました。
「不妊治療費は自分の稼いできた貯金でまかなってきましたが、あまりの高額に底をついてきました。今は夫だけの収入で生活しているので趣味の観劇はおろか、食べ歩きも買い物も何もできなくなりました。夫や義実家にもとても引け目があります。たまに友人とお茶をするにも特段話すこともないし、かといって相手が社会で活躍している様子を見ると、自分がキャリアを諦めただけに、素直に喜べません。子もちの友人はもちろん連絡を取り合うことすらもしませんし、結局、比較してしまうのでとてもつらいんです。今は夫に言われるがままに家事をするだけで、なにもやりがいがない。短期のパートに出る気力すらありません…」
また、専業主婦ということで、肩身の狭さも感じているようです。
「やはり、ネットを見ていると『専業主婦はラクでいいよね』といった意見が多く、そういった書き込みを見るだけでも胸を締めつけられます。唯一の救いは、同じ不妊治療で悩む人たちとつながっているツイッター。もちろん彼女たちとは会うこともありませんが、無事妊娠してネットから離れていく人たちを見るのはやっぱり辛い。それならネットを見なければいいと思うのですが…手持ち無沙汰でつい見てしまうんです」