●発想を広げてくれる料理教室

料理教室には2つのタイプがあると思う。ひとつは、レシピを大事にもって帰り、身につくまで何度も繰り返しつくる修業のための教室。もうひとつは、発想の素を学び、自分ならこうアレンジしてみたいという発想を広げてくれる教室だ。もちろん両方の性質を兼ね備えた教室もある。以前お話した

辻留

は前者にあたるだろう。

遥先生の教室は、私にとっては後者だ。教室で使ったデータや参考資料を後日すべてメールで送ってくれるから、復習するのも簡単。プロがいちばん明かしたくない(はずの)ものを共有して手の内を見せてしまうなんて! と最初はびっくりした。年齡のことを言うのは時代遅れかもしれないけれど、あぁなんて頼もしい若き料理家が現れたのだろうと感じた。

遥先生の教室に行ったあとは、通い慣れた酒屋の景色がちょっと違って見える。「今このお酒が気になる」という直観を大事にしてお酒を選んだら、グラスを貸してくださいとお願いしてその場で味見してしまう。教室で学んだキーワードを思い浮かべつつ、つくりたい料理を思い浮かべ、スーパーへ直行し食材を買って帰る。こうして週末の食卓を組み立てるのが目下の私のリフレッシュ法だ。

もしお酒が余ってしまったら?
スイカや桃のフレッシュな果汁で割ってカクテルにしてもいい。梅とカツオ節で煮て、煎り酒にすることもある。野菜や刺身にかければ、味わいがぐんと深くなる。おいしいお酒は、何度でも、心を豊かにしてくれるのだ。

【今月のひと皿】

サンマのコンフィ
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教室で習った鮎コンフィに感化され、旬のサンマをコンフィにしてみた。振り塩をして1時間冷蔵庫で寝かせたサンマにオリーブオイルとサラダ油をひたひたに注ぎ、ローズマリーとニンニクをのせ、100度のオーブンで5時間火をとおす。週末ならではのぜいたくなレシピ。

添えたのは、おろしキュウリ、ミョウガ、実山椒を混ぜたもの。残ったオイルもおいしいので、バゲットを用意して浸しながら食べた。

仁井田本家の「しぜんしゅ 生酛 純米原酒」

サンマのコンフィに合わせたのが、

仁井田本家の「しぜんしゅ 生酛 純米原酒」。農薬や化学肥料をいっさい使わない米を使用し、環境保全に力を入れたブランド。蔵つき酵母で醸したお酒はふくよかで深い味わい。サンマのワタの苦味とうま味、噛めば噛むほど小麦の味わいが増す「BAKE MAN」

のバゲットにぴったり合った。

「純米吟醸 生酒 葵つぶらか」

よく行く酒屋で見つけたのが「純米吟醸 生酒 葵つぶらか」(

萩乃露

)。フルーティな白ワインのようで、しかしあと味はさっぱり消える。オリーブオイルやニンニク、トマトソースと相性がよさそう! とひらめいてつくったのが、下のパスタ。

ニンニクとトマトのパスタ

ニンニクとトマトのシンプルなパスタ。みじん切りしたタマネギとニンニクをオリーブオイルで炒め、トマト缶を加える。隠し味にみりんと七味唐辛子を。甘味とコクのあるソースに、同じく甘味のある軽い日本酒がよく合う。口の中に残るこってりとしたうま味を、「葵つぶらか」が一体化しながら洗い流してくれる。

【寿木けい(すずきけい)】


富山県出身。ファッション誌の編集者を経て、食を主戦場とする会社に転職。10月16日に新著『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』(小学館)が発売予定、予約受付中。2020年には書き下ろしエッセイを出版予定。著書に『わたしのごちそう365-レシピとよぶほどのものでもない』(セブン&アイ出版)がある。趣味は読書。好物はカキとギムレット。 ツイッター:きょうの140字ごはん(@140words_recipe) ブログ:http://keisuzuki.goat.me/