40歳から料理を学んで気づいた、ラクに生きるためのコツ <四十の手習い>
寿木けい
2019.06.24
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旬の素材を使った毎日の料理や、おいしい食べ方をつぶやく人気ツイッターアカウント、今日の140字ごはん(@140words_recipe)。
アカウントを運営する寿木(すずき)けいさんに、大人になってから学んだ料理のこと、それをとおして気づく暮らしへの眼差しをつづってもらいます。 

大人になってからの学びたし、“四十の手習い”

今月から連載を始める寿木けいと申します。夫と2人の子どもと一緒に東京で暮らし、平日の昼間は企業に勤め、夜と週末に文章を書く仕事をしています。2017年春にツイッターをまとめた料理本(『わたしのごちそう365-レシピとよぶほどのものでもない』)を出版し、現在は秋に出す2冊目の料理本の執筆を進めています。

●料理本なんて100年早い

料理本を出しているなんて聞くと、調理の専門教育を受けた人と思われるかもしれませんが、そうではありません。本を出してみて初めて、素人のいけしゃあしゃあぶりに赤面し、力不足を痛感したのでした。

もちろん、人生のある時期の記録として、1冊目の本はとても大切なものです。多くの反響もありました。しかし2匹目のドジョウはないなあと、ある時点で見えてしまった。料理を取り巻く暮らしや食事情全般について、知らなくてはならないことがまだまだあると、40歳を前にして突きつけられたのです。

●費用は15万円強。名店で茶懐石を学ぶ

少し話はさかのぼって、初めて『辻留』(京都に本店を構える茶懐石)を訪れたのは10年以上前。友人が“自分への投資”と称して毎月出かけるのにくっついて、一緒に食事に行ったのです。
かっこいい味──これが、私が抱いた印象でした。初めて、体に染み込むような滋味とはこういうものかという驚きに貫かれたのです。とはいえ20代の会社員が頻繁に通える値段ではなく、写真集を開いては睦んできた憧れの存在。辻留が開催する料理教室、“辻留料理塾”の存在は知っていたものの、仕事や出産・育児でバタバタしているうちにあっという間にときが過ぎたのです。

本を出したあと、「今通わないと後悔する」と一念発起。運良く1席あいていた料理塾に通えることになったのでした。受講料は2017年5月からの1年間で15万円ほど。『辻留』に普通に食事に行く値段を考えれば、決して高いとは思いません。

受講料は2017年5月からの1年間で15万円ほど
左/一冊の中に見事な四季が流れる『辻留 日本料理を彩る うつわと四季の食材』(小学館)。右/三代目主人・辻義一氏によるエッセイ『辻留 新・料理塾』(里文出版)。
●懐石料理と家庭料理をつなぐもの

懐石料理なんてずいぶん高尚なと思われるかもしれませんが、実際にはかなり実践的な習いごとです。最低限の基本的な調味料を使って、旬の食材のもち味を活かすプロの技術を間近で見る。そうしてでき上がった料理を食べて、味つけの指針にする。台所で行われることにはすべて理由があります。『辻留』で腑に落ちた感動を自宅に持ち帰り、小さなキッチンで復習と工夫を続けながら、毎日の料理を少しずつ前進させていくのです。

辻留で得たものはたくさんありますが、普段から意識しているのはこの3点です。

1.旬の食材を使う
2.素材のもち味を活かす
3.食べる人に親切に
 

たとえば1なら、旬の野菜を買いに八百屋に行くだけでも、子どもにとって楽しい遊びになります。魚にも四季があります。いつも行く魚屋さんでは、「今日は煮つけにしたいのですが、なにがいいですか?」などよく話をするようになりました。

そして2。家庭ではレストランのような味つけを目指す必要はありません。その代わり、買ってきた刺身に薄く塩をして身を締めてから食べたり、肉を煮る前にさっと霜降りにする(さっと熱湯にくぐらす)など、ひと工夫で驚くほどおいしくなります。青菜にしろ魚にしろ、新鮮なうちに下ごしらえを済ませておく習慣も身につきました。

3は家族のために。季節の変わり目に夫や子どもたちが体調を崩しがちで食欲をなくしていたときは、刻んだ青ジソを加えたご飯にしたり、いつものみそ汁の吸口に刻んだミョウガを散らしたりして、食がすすむようにしています。

凝ったレシピ工程をひとつ加えるのではなく、ちょっとした手間を惜しまない。結果、総合的な調理時間が減って時短にもつながるのだから、調理技術というのは本当に合理的にできています。

ある日の辻留塾にて
ある日の辻留塾にて。生涯大半船上に在り/魯山人

おせち
師走の辻留塾で学んだお節料理を自分でも作ってみました。
●料理を知ることは、楽に生きること

社会人になって忙しくなり、いつか結婚して子どもに恵まれたりすれば、料理は特別なものではなく暮らしの一部になります。毎晩の調理に2時間もかかるようだと、いずれ料理がストレスになり、苦手意識が芽生えます。その結果、時短テクニックを追い求めたり、加減がわからず複雑怪奇な創作料理をこしらえてしまったりする。
時間を管理し、材料をやりくりしながらライフスタイルに合った料理を手早くつくれることは、大きな自信になります。私自身の生活を2年前(料理塾に通う前)と比較すると、一食にかける調理時間は25%程度減っていますし、調味料やスパイスの数も少なくなりました。

この原稿を書くために辻留ノートを見直していたら、こんなメモを見つけました。

「料理を習うことの楽しさは、慣れ親しんだ台所を先達(魯山人)の語彙をとおして再解釈することにある」

大人のままごとは今も続いています。この連載では、私が始めた学びたし(学び直しではなく)を「四十の手習い」と名づけ、毎月紹介していきます。共働き夫婦の日常、副業、子育てなど、いろんなキーワードも盛り込んで行く予定です。ぜひ楽しみにしていてください。では、また来月。

大人のままごとは今も続いています
1年の献立と、つくり方や講義の内容をぎっしり書き込んだメモ。
【今月のひと皿】

シソご飯辻留で食べてから、この季節によくつくるようになったシソご飯。好みでゴマを加えています。
千切りにした青ジソの葉を塩でもみ、水分をぎゅっと絞る。一度冷水に放ち、再度水気をよく絞ってゴマとともにご飯に混ぜる。
じめじめとした季節の食卓が涼やかになります。

【寿木けい(すずきけい)】
富山県出身。ファッション誌の編集者を経て、食を主戦場とする会社に転職。著書『わたしのごちそう365-レシピとよぶほどのものでもない』(セブン&アイ出版)。2019年秋に2冊目の料理本を、2020年1月には書き下ろしエッセイを出版予定。 趣味は読書。好物はカキとギムレット。
ツイッター:https://twitter.com/140words_recipe
ブログ:http://keisuzuki.goat.me/