宝塚歌劇団の男役として人気を博し、退団後は女優、タレントとして活躍している遼河はるひさんが、話題のクリエイターの仕事場を訪ねました。今回は帽子デザイナー・前田かおりさんのアトリエです。

遼河はるひさんと前田かおりさん
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アトリエの棚には帽子づくりに欠かせない木型がずらり

アトリエの棚には帽子づくりに欠かせない木型がずらり。地震が起きたら真っ先にこの棚を守る、というくらい大切なものだそう。

うさぎの毛のフェルトでつくられたつばの広い"女優帽"を試着した遼河さん

うさぎの毛のフェルトでつくられたつばの広い「女優帽」を試着。「普段はキャップが多いけど、こういうハットもすてき」(遼河さん)。

端切れや廃番になったサンプルの生地でつくられたくま

端切れや廃番になったサンプルの生地でつくられたくま(6600円)は、オンラインショップで販売。売り上げの一部を寄付にあてています。

頭に載せるタイプのトーク帽に挑戦する遼河さん

頭に載せるタイプのトーク帽に挑戦。「これって、どうかぶるんですか?」と聞く遼河さんに、「帽子って正解はないんです」と前田さん。

目次:

イメージに合わせて帽子をオーダーメイド刺激的で楽しかったロンドンでの修業時代帽子でセンスアップ。セットが面倒なときも!?その日、どういう気分でいたいかで帽子を選ぶ

イメージに合わせて帽子をオーダーメイド

「ベネチアで買った大きな帽子を思い出しました。普段は恥ずかしくて被れませんけど」と遼河さん。優美な女優帽がお似合い。

優美な女優帽がお似合いの遼河さん

前田:このアトリエでは、オーダーメイドの帽子を製作しています。ですので、ここにある帽子はサンプルなんです。

遼河:私、キャップが好きでたくさん持っていて、つばが広い帽子も持っていますが、オーダーしたことはないんです。父は帽子をオーダーしていました。好きなオペラを観に行くときに被ったりしていましたね。

前田:日本では、帽子をオーダーできるところは少ないです。お父さまはおしゃれですね。ここでは、まずメールで予約を受けつけ、そのときにイメージを伺っておいて、アトリエにお越しになったときにサンプルを見たり被ったりしていただきながら、形を決めていきます。あとは、素材や色を決めて採寸。サンプルを使って5㎜単位で調節していきます。2、3週間で完成するものもあれば、半年くらいお待ちいただく場合もあります。

遼河:全部手づくりですか?

前田:フェルトや天然草などの素材でつくった帽体という帽子の材料を木型に沿わせて、水蒸気をあてたり水で濡らしたりしながら形をつくっていくのですが、すべて手作業です。キャップなどの布地のものはミシンで縫ったりします。

刺激的で楽しかったロンドンでの修業時代

カオリミリネリーではイギリスの老舗服地メーカー「ホーランド&シェリー」の生地も扱う。使わなくなった生地見本はくまのぬいぐるみに。

イギリスの老舗服地メーカー「ホーランド&シェリー」の生地も扱う

前田:帽子づくりに興味を持ったのは、本当に偶然でした。20代半ばの頃、いわゆる自分探しの旅でロンドンに。たまたま日本食を買いに入ったお店で帽子のワークショップの貼り紙を見つけて、行ってみたんです。そうしたら、「これだわ!」って衝撃が走って(笑)。3か月くらいしか通えませんでしたが、すごく楽しかったんです。

遼河:ロンドンって楽しいですよね。ロケで行ったんですけど、私、いちばん好きかもしれない。めちゃくちゃおしゃれなおじさんが、帽子を被ってステッキを持って普通に歩いていたり。

前田:スタイルがあるということだと思うんです。すっごくおしゃれな人もいるし、そうじゃない人もいて、だれがなにを言おうがなにを着ようが全然構わない。だから、ラクなんです。

遼河:他人に干渉しないけど、尊重はしているんですよね。

前田:日本では、カンカン帽がはやったらみんなカンカン帽。それで、少しあとになって被ると流行遅れと言われたり…。ちょっともったいないなと思います。もっと自由に楽しんでほしいですね。

帽子の内側に入れて伸ばすストレッチャー(伸長器)

手前のちょっと不思議な形状の器具は、帽子の内側に入れて伸ばすストレッチャー(伸長器)。ロンドンから持ち帰りました。

木型に帽体(ぼうたい)と呼ばれる帽子の素材を被せ、細いピンを打って形をつくる

木型に帽体(ぼうたい)と呼ばれる帽子の素材を被せ、細いピンを打って形をつくります。「力のいる作業で、指にタコができることも」と前田さん。

木型は生地の色が移らないようにラップを巻いて使用

木型は生地の色が移らないようにラップを巻いて使用。前田さんが着ている作業着も、生地の色がつきにくいブラウンに。

帽子でセンスアップ。セットが面倒なときも!?

遼河:宝塚の男役のときは、よく帽子を被りました。時代物では、その時代を象徴するアイテムのひとつとして使っていたと思います。でも、それだけじゃなくて楽屋入りのときも被っていたかな。髪の毛をセットせずに、起きてそのまま行っていたから(笑)。

前田:実用性も備えたものですからね。私もセットが面倒なとき被ります。夏場は日差しを避けるためにつばつきのものを被りますし、冬は防寒用に。帽子はもともと宗教から生まれたもので、地位を象徴しました。それが日常的に使われるように。ちなみに、女性向けの帽子をつくる人を「ミリナー」、男性用の場合は「ハッター」といいます。

遼河:私は帽子がないと落ち着かないくらい日常的に被っていますが、便利なだけじゃなく、帽子によっておしゃれに見えたり全体のファッションがしまることもあると思います。おしゃれ度がワンランクアップするというか。

前田:同じ帽子でも、被り方によって印象も変わるんです。斜めにすると抜け感が出せたり、つばを上げるとかわいくなったり。慣れると、自然に角度を調節できるようになります。

遼河:宝塚の舞台でも、入ったばかりの下級生は帽子の被り方がぎこちなくて、ベテランになると帽子を持った時点で自分の形にしてしまうんです。

前田:カッコよく見える角度が、ご自分でわかるようになるんですよね。

その日、どういう気分でいたいかで帽子を選ぶ

遼河:今日は、久しぶりにこんなにたくさんの帽子を見て、あらためてすてきだなと思いました。でも、帽子って洋服よりも選ぶのが大変ですよね。

前田:影響力が、結構強いんです。帽子によって雰囲気ががらりと変わってしまうこともありますから。自分がその日どういう気分で過ごしたいか、どんなふうに自分を見せたいのかなど、気分に合わせて選ぶのがいちばんじゃないかと思います。もちろんTPOで選ぶ場合もあると思いますが、自分のその日の気分を大切に、自由に楽しんでもらえるといいと思います。

遼河:以前、ホワイトのワンカラーコーデがしたくて、洋服も靴も白でそろえて、帽子も白いものを探したことがあったのですが、この色で、この形でって決めて探すと、なかなか自分に合うものを見つけるのは難しいですね。

前田:既製品の帽子は、残念ながらバリエーションが少ないですから。たとえば靴なら、ヒールを選ぶときとスニーカーを選ぶときでは、テンションが全然違いますよね。だから靴を先に決めて、それに合わせて帽子を選ぶようにするといいかもしれませんね。

帽子づくりで大切にしているもの

イギリスの高級服地メーカー「ホーランド&シェリー」のサンプル

帽子の生地は、イギリスの高級服地メーカー「ホーランド&シェリー」のものを使用。多くのサンプルが用意されている。

帽子を形づくるのに重要な木型

帽子を形づくるのに重要な木型も、イギリスの職人がつくったもの。木型職人が少ないため、木型は貴重品。

ロンドンでの修業時代に製作した大きな麦わら帽

壁の大きな麦わら帽は、ロンドンでの修業時代に製作。帰国のとき荷物に入らず、壊れないように抱えて機内に持ち込んだという思い出の品。「実用性はないですが、手縫いなので味があります。今後は、ファッションショーのヘッドウエアなど、日常的ではないものにも挑戦してみたい」(前田さん)。

帽子を上手に保管するためのグッズも

端切れと防虫効果があるクスノキの木屑でつくった防虫袋

「帽子の素材は天然のものなので、虫食いもあります。だから、防虫は必要」と前田さん。くまのぬいぐるみと同じく、端切れと防虫効果があるクスノキの木屑でつくった防虫袋(各770円)をオンラインショップで販売し、売り上げの一部を寄付している。

オリジナルの白い帽子箱

また、型崩れしやすい帽子はオリジナルの白い帽子箱(3300円~)に。「箱はかわいいんですけど、場所を取るんですよね」という遼河さんに、「そういう場合は、2~3個なら大丈夫なので、重ね方をお教えします」と前田さん。型崩れしてしまった場合には、アトリエでメンテナンスもしてくれる。

帽子をたくさん試せて楽しかった遼河はるひさん

被ったことがないような帽子をたくさん試せて楽しかったです!

●遼河はるひさん
1976年愛知生まれ。宝塚歌劇団の男役として人気を博し、退団後は女優、タレントとして幅広く活躍中。2019年にサッカー選手と結婚。『突撃! 隣のスゴイ家』(BSテレ東)に出演中

●前田かおりさん
Kaori Millinery 35/帽子デザイナー
ロンドンでミリナー(婦人帽子職人)としての技術を学び、2014年に「カオリミリネリー」として独立。東京・神楽坂にあるアトリエで、帽子のオーダーメイドを手掛ける

取材協力/Kaori Millinery 35
撮影/水谷綾子 ※情報は「リライフプラスプレミアム」取材時のものです