その家具を使って、なにをしたいのか。あるいは、どんな時間を過ごしたいのか。オーダー家具をつくる際は、理想の仕上がりにするためにも、自分たちの将来の暮らしぶりと正面から向き合う必要があります。この「考えをまとめる機会」を大事にしてほしいと説くのは、家具工房「フリーハンドイマイ」の代表・今井大輔さん。いったいどういうことなのでしょうか?
すべての画像を見る(全6枚)「できる」「できない」ではなく、多様な選択肢があることを伝える
家具やキッチンのご相談をいただいた際には、お客様から言われたことに対して「できる」「できない」とお伝えするだけではなく、自分たちにどんなことができるか、家具にはどんな形があるか、それがあることでどんな暮らしができるのか、というお話をするようにしています
オーダー=「できません」と言わないこと、という考え方もありますが、できないことはきちんと「できません」と伝えることも必要だと私は思っています。
ほかにもコストを下げたい場合はシンプルなスライドレールにもできること、細工を見せるためにレールを使わない昔ながらの引き出しのつくり方もあること、などいろいろな選択肢や組み合わせがあることを最初にお話するようにしています。当然それを選ぶことでどんなメリット、デメリットがあるかということもきちんとご説明します。
さらには、それを使うとこういう空間の見せ方ができて、こんな過ごし方ができて、と話が枝分かれして広がっていきます。その話を受けてお客様からもいろいろな希望やアイデアが出てきます。そのうえで、お客様の暮らしにとってなにが必要なのかをひとつずつ選んでもらう作業に入るのです。
思いが整理された結果、オーダーの内容が変更になることも
その選んでいく過程の中で、いつの間にかモヤモヤしていた思いが整理されて、自分が望んでいる家具やキッチンの形が見えてきて、暮らし方のイメージが固まってきます。「できる・できない」「この中からセレクトしてください」というやり方では実現できなかったものが生まれるのです。
自分の望む家具やキッチンの形を考えていく作業は、言い替えると自分の暮らしを見つめ直す作業だと常々思っています。いろいろな選択肢を示されて、自分はどんなふうにこの家具やキッチンを使っていきたいのだろう、どう暮らしたいのだろう、自分には何が必要なのだろう、ということについて、皆さん時間をかけて悩まれます。
その結果、当初希望されていた家具とは違うものをオーダーする、という結果になることもよくあります。
たとえば「リビング収納の一角にパソコンデスクをつくろうと思ったけれど、話をするうちに、座ってパソコンをするよりスマートフォンを使う時間のほうが長いと気づきました。それならパソコンデスクをつくるより、ダイニングテーブルを大きくして、そこでパソコンやそれ以外の作業もできるようにしたほうがいいかな」という方もいました。
「小学校に入学する子どものデスクをつくろうと思ったけれど、小さいうちは親の近くで勉強する方が安心するみたい。だから家族みんなで一緒に勉強や作業ができるようにダイニングテーブルを大きくします」というケースもあります。
また「子どもたちがもう少し大きくなったら、今井さんちのようにみんなでキッチンで作業したいから、自分が使いやすいだけでなく、家族みんなで使えるキッチンにしてください」と言ってくださったお客様もいます。
目に見えない思いを形にできるのがオーダー家具の魅力
もちろん、暮らしを見つめ直すとすべてがうまくいくわけではなく、できあがって暮らし始めてから「こうしてもよかったかな」と気づくことも当然あると思います。あれこれ試行錯誤した結果、結局最初の形に戻ることもよくあります。でも、それも見つめ直した結果です。
打ち合わせが終わって家具の形が決まると「好きなものや希望についてじっくり考えたことで、自分の感覚がどんどん研ぎ澄まされたような感じがする」という趣旨のことをおっしゃる方も多いです。
結論に至るまでの過程は、いってみればその人の暮らしに対する考え方そのもの。たとえ最初の形に戻ったとしても、それはきちんと考えを巡らせてたどり着いた答えですので、最初の思いとは大きく違っています。
こうした目に見えない思いを形にできること。それこそがオーダー家具の魅力なのではないかと考えています。
●教えてくれた人/今井大輔さん
暮らしに寄り添うオーダーキッチンやオーダー家具を手掛ける家具工房「フリーハンドイマイ」代表。神奈川県高座郡に工房とショールームがある。