提供/スミレアオイハウスみなさんは「9坪ハウス」をご存知ですか?文字どおり建坪9坪の小さな住宅ですが、名作住宅を原型として生み出されたデザイナー住宅で、ただの狭小住宅とはひと味ちがう個性を持っています。今年、その「9坪ハウス」が「9坪の宿 スミレアオイハウス」として、誰でも泊まることができる民泊になりました。「9坪の家って狭くないの?」「ガラス張りで視線は気にならない?」「冷暖房の効き具合は?」などなど、聞いてみたいことがいっぱい。20年間お住まいになられた管理人さんを取材しました。
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「スミレアオイハウス」の原点は建築家・増沢洵氏の最小限住居家族4人で9坪の家に暮らすってどんな感じ?を図面で確認障子を活用して外からの視線や光をコントロール「9坪ハウス」で辛かったのは冬の寒さよりも夏の暑さクラウドファンディングを募って「9坪ハウス」を民泊に「スミレアオイハウス」の原点は建築家・増沢洵氏の最小限住居
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「9坪ハウス」について、まずは簡単に説明します。原型となっているのは建築家・増沢洵さんが1952年に建てた「最小限住居」で、建築史に残る小住宅です。
1999年、この「最小限住居」に魅せられた萩原修さんがデザイナーの小泉誠さんにリデザインを依頼し、「スミレアオイハウス」が誕生しました。
この「スミレアオイハウス」が、今回、僕が宿泊・取材した建物です。もともとは萩原さんが自宅として建てたもので、2人の娘さんにちなんで名付けられました。この「スミレアオイハウス」が話題を呼び、デザイン住宅「9坪ハウス」が普及することになります。
「最小限住居」が「9坪ハウス」として現代に生まれ変わるきっかけをつくったという意味で「スミレアオイハウス」は日本建築の歴史においても意義のある存在と言えるのです。
家族4人で9坪の家に暮らすってどんな感じ?を図面で確認
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まずは間取りをご覧ください。ざっくり頭に入れておくと、このあとの話が分かりやすいです。
さて、実際の住み心地はどうなのでしょうか?この物件を建てた萩原修さんの次女である萩原葵さん(写真上)にお話をうかがいました。
葵さんは家族とともに7歳のときから20年間「スミレアオイハウス」で暮らし、現在は宿の運営と管理を手掛けています。家族構成はご両親と葵さんとお姉さんの4人。おまけに猫も2匹いたそうで、さすがに狭く感じたのではないでしょうか?
「狭さに関しては本当によく聞かれるんですけど、気になったことがないんです。家族も仲が良かったですし。お客さんも多くて、オープンハウスのときには100人くらい来たこともありました。自分の生活とか考え方がこの家でつくられてきたから、今でも人が集まる場を作るのが好きなんです」と笑顔の回答。とはいえ、姉妹2人とあって、さすがに思春期にはプライベートな空間がほしかったそうで…。
「やっぱり子ども部屋へのあこがれみたいなものはあって、大きくなってからは2階に仕切りを設けて部屋をつくってもらいました。姉妹で1坪ずつのマンガ喫茶みたいなスペースです。完全に区切っているわけではないので、音は聞こえてしまうんですけど」
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その2階も現在はひとつの部屋に戻り、すっかり広々しています。
障子を活用して外からの視線や光をコントロール
「スミレアオイハウス」の特徴が大きな4枚のガラス窓。ガラス張りの家というと、やはり気になるのが外からの視線です。
庭の前には道路があって誰でも中をのぞけそうですが、気にならなかったのでしょうか?
「イヤだと思ったことはないですね。昼は光が反射するので、意外に外からは中が見えにくいんですよ。道路の向こう側は畑(現在はビニールハウスが建つ)ですし、両親もまわりの環境を考えて土地を選んだそうです」
夜になって室内に明かりが灯ると、さすがに外からははっきり中が見えてしまいます。そんなときに登場するのが障子です。「スミレアオイハウス」の4枚のガラスには障子が備えられています。これを閉めると、視線を遮ることができるのです。
「障子を開け閉めすると部屋の雰囲気も変わります」と萩原さん。日中に障子を閉めると、外からの光も柔らかくなりました。
これなら外からの視線も気になりませんし、インテリアとしても独特の雰囲気が感じられます。障子は断熱効果もありますし、大きな窓との相性はいいのかもしれません。
でも、2階の障子ってどうやって開け閉めするんだろう?と思っていたら、萩原さんが梁の上を軽々と歩いてみせてくれました。
高所恐怖症の僕には想像しがたいですが、落ちたりしたことはないそうで、やはり子ども時代からの慣れの賜物でしょうか。
「9坪ハウス」で辛かったのは冬の寒さよりも夏の暑さ
もうひとつ聞いておきたかったのが、暑さや寒さの問題。この「スミレアオイハウス」はほとんど部屋の区切りのない、大きなワンルームのような構造です。冷暖房がどうなっているのか、想像がつきません。
「日当たりがよくて窓から日差しが入ってくるので冬は暖かいです。1階の床には床暖房が入っていますし、エアコンはほとんどつけなかったですね」
たしかに大きな窓から差し込む日光は、冬でも十分に部屋を暖めてくれそうです。足もとの冷えは床暖房がカバーしてくれます。
僕も実際に裸足で過ごしましたが、ほんのり足が温まる感覚は快適でした。エアコンの使用頻度は低いということもあってか、存在感を抑えるように控えめに設置してあります。
こういう工夫があるだけで、部屋の見え方はぐっと変わりますね。萩原さんによると、苦労したのは夏の暑さのほうだとか。
「暖かい空気は上に昇ってきますし、夏はものすごく暑かったですね。当時は2階にエアコンがなかったので、1階で寝ていました。エアコンのある畳の部屋に閉じこもって、あとはなるようになるという感じ(笑)」
とはいえ、そう語る萩原さんの表情は、本当にイヤだったという感じではありません。
「私は子どものときから住んでるし、他の家を知らないから、それなりに工夫しながら生活できるものなんだなって思っています」。なるほど、大きい窓のうち、右側は動かすことができるので、空気の入れ替えは可能。
はめ殺しの大窓とはちがい、換気ができるのも大事なポイントだなと感じました。民泊となった現在では2階にもエアコンが設置されているので、安心して宿泊できます。
クラウドファンディングを募って「9坪ハウス」を民泊に
最後に、この家を民泊にするまでの経緯についてうかがいました。
「5年前に母が亡くなって、姉も移住先を探している最中でした。家にいるのは父と私だけになって、家族のかたちが変わってきたときに『この家をどうしようか?』という話になりました。いろいろ考えたんですけど、ひとつの家族に売ったり貸したりするよりも<開かれた家>にしたいなと思ったんです。昔のようにいろんな人が訪れる場所であったほうがいいなとクラウドファンディングを募って民泊を始めました」
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民泊を始めてみていかがでしたか?
「今年のお盆くらいから始めたので、まだお客さんは10組くらいなんですが、9坪ハウスのことが気になっていたという建築好きの方が多いです。中には『本当は9坪ハウスを建てたかったんだけど、子どもが多いからあきらめた。宿泊できてよかった』という方もいました。そういう思いが伝わってくると、やってよかったなと思います。今はまだ家族や友人同士で泊まる方しかいませんが、料理の会をやるとか、作家さんが泊まりながら展示をやるとか、いろいろなかたちで使ってもらえたら面白いなと思っています」
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コロナ禍で宿泊にも気を使うご時世ではありますが、「スミレアオイハウス」のような一棟貸しならばリスクはかなり抑えられるはず。
いよいよAirbnb(エアービーアンドビー)でも「Go To トラベル キャンペーン」の適用が始まり、「スミレアオイハウス」も10月20日以降の予約から割引が開始。
僕が宿泊したときは通常価格で3万1193円でしたが(一棟貸しの料金。清掃代金や税金なども含む)、キャンペーンを利用すれば、ぐっとリーズナブルに宿泊することができます。
9坪ハウスに関心がある方はもちろん、デザイナー住宅や狭小住宅の住み心地が気になる方、これから家を建てるためのアイデアが欲しいという方には、ぜひとも訪れていただきたいお宿です。
●9坪の宿 スミレアオイハウス/東京・三鷹市にある建坪9坪の一棟貸しの宿