調布市にあるKさん夫妻の家は都内近郊の駅から徒歩数分。共働きなので駅近を優先した結果、敷地は約62平米と狭小になりました。この家はダイビング好きな夫妻の好みを取り入れて、しっとりとしたアジアンリゾートの空気を漂わせています。 キッチンはLDと緩やかにつながっていて一体感を保ちつつ、小さくても集中して作業がはかどる工夫が満載です。
すべての画像を見る(全20枚)今までで最も狭いけど いちばん快適なキッチン
「さほど広さは望まず、機能的かつ趣味を反映させた家を希望しました」と夫。
夫妻はスキューバダイビングが趣味で、何度も訪れているタイのリゾートホテルの雰囲気を家に思い描いたそうです。設計を依頼したのはMDS一級建築士事務所の森清敏と川村奈津子さんです。
「タイのホテルの写真を見せていただきイメージを共有しました。帰りたいと思える家であること、緩やかにつながる内部空間、などの要望も伺いました」(森さん)。
そこから導き出された形は、奥から手前に徐々に小さくなる家型を連ねた外観の2階建て。内部の意匠にも家型をそのまま反映させています。子どもが描くような家型の仕切りは、海辺のコテージを連想させるようです。また床には段差をつけたことで小さな空間の中に多様な風景が展開し、豊かな表情を与えています。
メインの生活空間は2階。ダイニングとキッチンはひとつながりの空間で、複数の家型で緩やかに仕切られ空間の奥行きを感じさせます。
外に見せてもOK ! のオープン収納で作業が快適
キッチンは人が立つと窮屈さを感じるくらい小さな空間ですが、間口をフル活用して壁には上下段のオープン棚もつけるなど、使い勝手のいい工夫がいっぱいです。鍋やフライパンの類は、正面の壁を活用した3段の造作棚に収納。「オープンな収納を望んでいました。サッと取り出しやすく、片付けもラク」と妻も満足しているよう。
縦長のスリット窓からは風景が眺められるので外の気配を感じ、また外からは窓から内部の気配が感じられ暮らしの温かさが伝わってくるようです。
ワークトップはL字型にして広さを確保しました。何かと汚れがちな加熱機器回りを、ダイニングから視界に入らない側面に配しています。ワークトップのコーナー部に、家電などモノを置きやすいのもL字型のメリットですね。
「体の向きを変えるだけで移動が少なく、さらにテーブル背後のカウンターの活用で、皿の受け渡しもラクです。今まで住んだ家で最も狭いキッチンですが(笑)、使い心地は格別です」と妻。
レンジフードはオリジナルで製作し、ここでも家型デザインをモチーフに。家の中に家がいくつ ? などと数えるのも楽しそう !
冷蔵庫も家型ボ ックスにすっぽりと覆われ、生活感を抑えるのに成功しました。
ワイングラスの収納棚も冷蔵庫の裏側を活用した家型デザインです。 内部に仕込んだ照明が、バーのような大人っぽい雰囲気を醸し出しています。
キッチンとダイニングの間に設置したカウンターの下部を食器棚に活用しました。「調理中にも取り出しやすい位置で助かって います」。
アジアンフードはK家の人気メニューです。この日のランチは、野菜たっぷりのタイ風カレーとサラダ、ローストしたカボチャとヘルシーなメニューです。
ダイニングには、窓際に造り付けベンチを設置。横に手を伸ばせばワイングラスがすぐ取り出せる工夫で、ゲストのもてなしにもぴったりです。
豊かな素材使いで 非日常の雰囲気を
リビングは床と同じウォールナットのフローリング材を壁や天井に張った意外性のあるデザイン。印象的な空間に仕上がりました。特に天井は張るのに手間がかかり、面も広いため、職人さん泣かせだったとか。
しかし仕上がりを見ると、切妻状の天井部の収まりなどは思わず見入ってしまうほどの精緻さ。「天井の美しさを重視して、照明はダウンライトなどをつけず、必要最小限としました。夜は自然に眠くなり、朝は自然に目が覚めるんですよ」
ソファ側から見たリビングルームです。正面の造作TVボードはベンチ兼用。中に客用の寝具などが収められています。写真の右側は、建物とのすき間を活用したテラスになっています。プライバシーを確保しつつ、採光や外の気配を取り込んでいます。
自然石の質感がリゾート感をプラス
ふたり暮らしだからこそできる平面構成、それもK邸の持ち味です。特に反映されているのが、寝室と水回り、クロゼットをワンフロアでまとめた1階です。バスルーム正面の壁は外構などでよく目にする石貼りで、隣り合う寝室の端まで贅沢に施しています。非日常のテイストを取り入れてホテルライクなつくりと、ガラスの仕切りで視線が途切れることがないため、開放感とリラクゼーション効果を同時に味わえます。
浴室隣の寝室。室内の一部に自然の石を用いたいとの夫妻の希望をかなえました。自然石ならではの質感が独特の雰囲気を演出しています。バスル ームと寝室は一部スリット状のガラスで仕切り、双方をシースルーの仕上がりに。
ガラス壁でつながる寝室とバスルームです。「バスルーム側のガラスは透明感をキープするため、毎晩入浴後の拭き取り掃除をがんばっています」と夫。
洗面コーナーには奥行きの浅い棚板を設置し、コロンなどのボトル類の定位置にしました。木製のカウンターは内装の雰囲気にもよく馴染んでいます。
バスルームは、玄関ホールから続く廊下の突き当たり。家に入った瞬間、贅沢な石貼りの仕様が視界に入るのも魅力的ですね。
階段はスケルトンなので、2階からの自然光が階下にまで届きます。廊下の左側には大容量のウォークインクロゼットを造作しました。
屋根型の連なるデザインで、奥行き感を演出した外観です。限られた敷地のなかで、駐車場の確保と出入りしやすい玄関の配置などに腐心したそうです。念願をかなえ、南国のリゾートホテルライクな暮らしを手に入れたK夫妻の小さくて豊かな家を拝見しました。
撮影/川辺明伸
設計/MDS一級建築士事務所
プロデュース/ザ・ハウス
※情報は「住まいの設計2018年5-6月号」掲載時のものです