都心のアパートに暮らしていた小川さん夫妻が新居を構えたのは、東京・調布市の郊外ののどかな住宅地。時を同じくして長男が誕生し、にぎやかな暮らしが始まります。昔から友人を招いて食事やお酒を楽しむことが大好きなご夫婦が実現したのは、一人でじっくり、ときには大勢でにぎやか、そんな多彩な楽しみ方ができる、「こもるキッチン」のある住まいでした。
目次:
丸い壁で緩やかに区切った小屋のようなキッチンひとりでも。大勢でも。自由自在なキッチン小屋のようにユニーク!リビングの吹き抜けを貫く円筒形の壁庭やテラスとの連続性を楽しむスキップフロア構造バスルームに書斎、贅沢空間たち丸い壁で緩やかに区切った小屋のようなキッチン
すべての画像を見る(全12枚)小川さん夫妻は昔から友人を招いて食事やお酒を楽しむことが大好き。定番は「ウィスキーの会」などテーマを決めたホームパーティーを開くこと。
とはいえ「以前暮らしていたアパートのオープンキッチンは食事中に洗い物が目に入って気になるし、ニオイもこもりやすくて。日当たりが良すぎるのも落ち着きませんでした」と妻の未季さん。
そこでニコ設計室の西久保毅人さんが提案したのが、キッチンを丸い壁で緩やかに区切るプランでした。
「白ワインの似合うキッチン」をテーマに壁と天井をグレーに塗り、床も一段下げて明るいダイニングと異なる雰囲気に。友人が集まったときは、レストランの厨房のように大勢で料理を楽しむんだとか。
天井高を抑え、壁をダークに塗った空間は明るいダイニングとは対照的で、「こもる雰囲気」が心地よいキッチンになっています。キッチンの壁に開けた横長の窓のようなスリットは、リビングのソファに座ったときにちょうどキッチンに立つ人の顔が見える位置に。
「リビングへコーヒーを手渡したり、会話したり、子どもの様子をうかがったりと大活躍しているそう。明るいリビングからの明かり取りの役割もあります」(ニコ設計室)
「夜中にジャムを煮たり、黙々とサヤインゲンの筋取りをしたりするのが好き」という未季さん。この空間であれば存分に”こもる”を楽しめそう!
ひとりでも。大勢でも。自由自在なキッチン
オリジナルのキッチンは、壁付けのI型でコンパクトに。まるで映画のワンシーンのようなクールなこの“独立空間”は、素材のバリエーションが豊富。
例えば手前の作業テーブルの天板は、なんと夫の祖父母が長年使っていた思い出深いもの。塗装し直し、アイアンの脚部を組み合わせ、中央のタイルは鍋敷き代わりにもなってとっても便利なんだとか。
木の温もりあふれるオリジナルのキッチンにダークグレーの壁、そして味わい深いタイル。それぞれの素材がひとつなぎとなり、こもる感をさらに引き立てます。友人を集めて料理を楽しむにも十分な広さがあり、大容量のパントリーが空間をすっきりと保ってくれています。
キッチンのガスコンロは、気兼ねなく使える無骨なデザインにこだわり、ハーマンの製品を愛用。
毎日活躍する鍋やポットは、質感が好みのホーロー製です。(写真左)また、キッチン奥は広いパントリーに。(写真右)
普段使いの食器や雑然としがちな雑貨、冷蔵庫などを収納してキッチンをすっきり保っています。引き戸で視線を遮れるので来客時も安心です。
【KITCHIN DATA】
- キッチン本体……オリジナル
- ガスコンロ……ハーマン C3WF2KJTKST
- ガスオーブン……東京ガス SN-860B
- レンジフード……パナソニック FY-9HZC4-S
- シンク……コーラー K-5964
- 水栓金具……LIXIL SFE-546S
- 食洗機……パナソニック NP-45MD5W
小屋のようにユニーク!リビングの吹き抜けを貫く円筒形の壁
吹き抜けを貫く円筒形の壁。”こもる“キッチンは室内ながら小屋のようにユニークな印象で、リビングから眺めても楽しい!住まいは半階ずつずれながら空間がつながるスキップフロア構造で、子ども部屋へはブリッジのような通路を渡るなど、高低差に富む楽しい構成になっています。
リビングにいても、窓越しにキッチンとその上部の子ども部屋の気配が分かる、まさに”幸せの通り道”がいっぱいの、家族思いな設計なんです。
神戸のインテリアショップ、WEBOに特注したソファ。パキッとした色味は空間のアクセントに。登山が趣味の夫妻、カメラマンである未季さんが撮影した燕岳の写真を飾っています。
庭を眺める吹き抜けのダイニングには、可愛らしい丸テーブルが。Yチェアに合わせてデザインしたWEBOオリジナル、無垢材のこちらは6人で囲めるスグレモノです。
庭やテラスとの連続性を楽しむスキップフロア構造
小川さん夫妻の求める暮らしは、”テラスでビール、庭でバーベキュー"など外部を取り込んだ開放的なものが理想。
西久保さんは敷地に母屋と離れ、そして庭やテラス、ピロティなど外部空間をちりばめて、室内外のつながりを大切に設計を進めました。印象的なのが、スキップフロア構造によって室内のどこからでも庭やテラスが近くに感じられること。
リビングは地面より1.4m高く、テラスは1・5階と、高さを緩やかに変えることで室内外が立体的につながり、家族がどこにいても近くに感じられます。
住まいを外から見てみると、前面道路から見ると左が離れ、右が母屋。母屋の道路側にピロティを設け、街と住まいを緩やかに区切っています。玄関と離れをつなぐ渡り廊下は、ガレージから雨の日でも濡れずに移動ができます。
右はリビングからテラスに上る階段が。なんだかアスレチックのようでワクワクしてしまいませんか?
バスルームに書斎、贅沢空間たち
住まいで最も日当たりのいいバスルームは、「入浴時間以外も豊かな空間にしたい」と、テラスと同じデッキの床でフラットにつなぎ、開放的なガラス張りで屋外の延長のように仕上げました。
「水遊びをしたりテラスへの動線にしたり、いろいろな過ごし方ができます」と未季さん。まるで屋外(!?)なバスルームは外との境界を曖昧にすることで、広がりと開放感を生んだ気持ちのいい空間が完成しています。
キッチン上部の子ども部屋は、現在は書斎として活用中。書棚は壁の骨組みで本来隠れる部分ですが、施工中に見た夫妻が「このまま書棚にしたい」と希望したんだそう。
偶然にも文庫本がぴったり収まるサイズだったというから驚きです。これだけの本がありながら圧迫感を感じないのは、おおらかなカーブの壁効果でしょうか。
このスペースが、将来子供部屋へと変化する姿をぜひ見てみたいですね!
庭やテラスと立体的につながる、のびやかなリビングダイニング。対照的に壁で囲って光を抑えたキッチンは、「こもれる空間」。一人でじっくり、ときには大勢でにぎやかにと、多彩な楽しみ方ができる住まいでした。
設計/西久保毅人(ニコ設計室)
撮影 中村風詩人
※情報は「住まいの設計2017年5-6月号」取材時のものです