突然ですが、皆さんのお家は築何年になりますか?築10年以下の人から、30年以上という人まで様々かと思いますが、中には、80年前に建てられたお家に住んでいる人もいるんですよ!それが、大阪市の中心部から地下鉄で20分ほどの平野区に住む、吉永さん夫妻です。
すべての画像を見る(全9枚)新しい家も目に付く住宅地に残る、二軒長屋をリノベーションして住んでいるお2人。一体、どうしてそのようなお家を選んだのでしょうか?
冬は室温2℃!壁が薄く隣の音が聞こえていた
夫の規夫さんがこの二軒長屋に住み始めたのは8年前。
家主は友達のお父さんで、1軒が空き家になった時、隣でひとり暮らしをしているおばあさんが不安がり、「誰か住んでくれる人、いてへんか」というわけで、独身だった吉永さんが格安の家賃で借りたのだとか。
「天井裏をねずみが走り回って、どどどどっ、と音がしてました。冬の夜、部屋に戻ると温度は2℃で、外とほとんどいっしょ」畳だった床は塩ビシートに改装され、竿縁天井のすき間というすき間にガムテープが貼ってありました。
瓦葺きの屋根の下地の土が上から落ちてくるのを防ごうとした、前の住人の自衛策だったと言います。2軒長屋を隔てているのは土壁一重。隣のおばあさんが『新婚さんいらっしゃい』を見て笑っているのが聞こえた。朝は、ちーんという仏壇の鉦の音で目が覚めたそう。
結婚を機にリノベーションを決意
2年前に結婚することになり、さすがにこれでは住めないと、家主に了解を得てリノベーションを決意しました。
妻・京子さんの仕事は工務店の現場監督。設計と施工、2人の強みを生かして、基本的にセルフビルドの長屋改修が始まりました。
いざ天井をめくってみると、見事な梁が現れて、いきなり空間が広がったそう。「いや、このうち、大きなったわぁ」と喜んだのも束の間。見れば隣との界壁は元の天井の下までしかなく、上はつながっていて音が筒抜け!そこで夫妻は、界壁に沿って天井いっぱいまで本棚を作ることに。
界壁をふさぐだけでなく、防音壁になり、後ろに断熱材も入れられ、もちろん、収納量は格段に増えます。棚の上のほうの本を取るときは、棚板を足場がわりにしてよじ登らなければなりませんが、厚さ24㎜の構造用合板で組んだ頑丈な本棚は、一石何鳥にもなったようですね。
不便だけど心地よい家
建具で仕切られていた3部屋をワンルームに変えた長屋は、東西に視線が抜け、床面積56平方メートルとは思えないほど広くなりました。西には裏庭があり、サザンカとクスノキとナンテンが育っています。
ここからの風で、夏は冷房いらず。ペアガラスの木製建具を入れたので、冬の寒さもしのぎやすくなりました。とはいえ、快適さ、便利さは、満点にはほど遠く、この家を見て「京子ちゃん、かわいそう」と言った人もいるとか。
しかし、新しさや便利さが何より大事な人に、80年もの歳月を生き延びてきたこの家の良さは分かりません。
自宅から始まったプロジェクト
たまたま長屋に住んで、必要に迫られて改修した経験は、建築家・吉永さんに壮大なテーマをもたらすことになりました。「大阪には約5万軒もの長屋が残っています。築60年から80年くらいのものが多いんですが、きちんと改修すれば百年住宅になる。百年住宅を喜び、祝う文化を日本に根づかせたいな、と」
長屋を再生し、高齢化が進む地域に若い世帯が移り住めば、地域は活気づきます。吉永さんの長屋は、「ヨシナガヤ001」と名づけられ、現在ヨシナガヤプロジェクトは005が進行中だそう。
設計/Office for Environment Architecture
施工/N.P.O.
撮影/キッチン ミノル