今年を振り返ると、新型コロナウイルスの影響でおうちで家族と過ごす時間が大半をしめました。普段は会社に行っているはずの夫が家にいることで、顔を合わせるたびにイライラ…。そんな人もいるかもしれません。じつはそのイライラに夫だけではない原因が潜んでいるかもしれないと指摘してくれたのは、漢方メディアを手がける医療ライターの大場真代さん。詳しく教えてもらいました。
すべての画像を見る(全3枚)夫と一緒にいるのが以前より苦痛…。もしかして更年期障害が潜んでいるかも?
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、私たちの生活は大きく変わりました。外出自粛に伴い外食や旅行などが制限され、また、在宅勤務を採用する会社が増えたり、学校もオンライン授業に切り替わるなどで、家族と自宅で過ごす時間が増えました。
とくに、夫の昼食を毎日考えなくてはならなくなったり、家事に手は出さないのに口だけ出されたり、外出しようとすると「どこへ出かけるのか」といちいちチェックしてくるようになったり…。家族と過ごす時間が増えたからこそ、夫の行動にいつも以上にストレスを感じている人、多いのではないでしょうか。
●夫に強いストレスを感じて不調をきたす「夫源病」とは?
漢方医学では「心身一如(しんしんいちにょ)」という言葉がよく使われます。
これは、心と体はつながっていて、切り離すことができず、それぞれがお互いに強く影響しあっているという意味で、漢方医学の特徴をあらわす言葉でもあります。
たとえば、大事な試験の前など緊張が続くような場面では胃やお腹が痛くなったり、逆にひざや腰など体のどこかに痛みがあって、それがなかなか治らないと出かけるのもおっくうになり、気持ちも憂うつになってしまう、というように、心の不調は体の症状に影響し、体の症状が心の不調を招くこともあるということを表している言葉です。
近頃「夫源病(ふげんびょう)」という、夫が原因となって起こる病気が注目されています。夫源病とは、夫の何気ない言動に対する不平や不満、また夫の存在そのものが強いストレスとなって、妻の心身に異常をきたす病気のことで、シクラメディカル代表の石蔵文信医師が提唱しました。その症状は、頭痛やめまい、動悸、イライラ、不眠、抑うつ、発汗など多岐にわたります。
…気づいた方もいるでしょうか。じつはこの夫源病によって起こる症状は、更年期障害によって起こるものと似ているのです。
●女性ホルモンが低下するとストレスに弱くなる
女性には、小児期、思春期、性成熟期、更年期、高齢期と5つのライフステージがあります。更年期にあたるのは、閉経の前後5年ずつ、計10年くらいの期間のことをいいます。閉経の平均年齢が50.5歳(
日本産婦人科医会より)といわれていますので、個人差はありますが、だいたい40代半ば頃から更年期を迎えることになります。
みなさんご存じのように「更年期障害」に悩まされる方は少なくありません。これは、20~30代の性成熟期に分泌量のピークを迎えた女性ホルモン(エストロゲン)が、更年期に急激に低下することで起こる身体的、精神的な症状のこと。ホットフラッシュと呼ばれるのぼせや発汗、動悸、冷え、不眠などが代表的な症状です。
夫源病は、更年期障害とは無関係ではないのです。
和歌山県立医科大学の上山敬司准教授(当時)らの研究で、マウスに強いストレスを与えたときの性別の差を調べたものがあります。この研究では、同じストレスでもその影響はオスのほうが強く、メスのほうがストレス耐性が高いことがわかりました。しかし、卵巣を取ったメスはオスと同じようにストレスに弱くなり、卵巣を取ったメスに女性ホルモンを補充すると、ストレスに強くなることがわかったのです。これは動物での実験結果ですが、人の場合でも女性ホルモンがストレスから女性の身体を守ってくれる可能性があることがわかったのです。
つまり、これまでは夫の存在がストレスであったとしても、女性ホルモンが女性の心と身体を守ってくれていました。しかし、更年期以降、女性ホルモンが減少することでストレスへの耐性が弱くなり、体調を崩してしまうということなのです。更年期障害で何らかの治療を受けているのに、なかなか症状がよくならないという場合、もしかすると夫源病が隠れている可能性があります。
●漢方薬が救いになることも。かかりつけの婦人科に相談という手も
このようなときに活用してほしいのが漢方薬です。
漢方薬は、自然界に存在している植物や動物、鉱物などの薬効となる部分である生薬をふたつ以上組み合わせてつくられた薬のことをいいます。風邪のときによく使われている「葛根湯(かっこんとう)」は、葛根、桂皮、大棗、芍薬、麻黄、生姜、甘草という7つの生薬からつくられています。
そのため、ひとつの漢方薬で、さまざまな症状を改善することができます(ちなみに葛根湯は肩こりなどにも有効です)。また、漢方薬は「同病異治(どうびょういち)」といって、同じ病名でも、その人の体質や身体の状態によって、異なる漢方薬が処方されます。西洋医学とはもっとも大きく違う点です。更年期障害は特に、困っている症状も異なりますし、その人の体質も大きく異なります。現在、医師が処方できる保険適応の漢方薬は約150種類あります。そのためオーダーメイドのような形で、ご自身の悩みに合う薬を見つけることができるのです。
漢方薬は病院で処方してもらうのがいいかと思います。漢方専門外来もありますが、かかりつけの婦人科に「漢方を飲んでみたい」と相談するのもいいでしょう。婦人科の医師の8割は漢方を処方したことがあるというデータもあります。
漢方薬を更年期のお守りに、一人の時間をつくったり、好きなことを見つけて楽しんだりして、日々のストレスを上手に発散しながら、更年期をゆるやかに楽しく過ごしたいですね。