●ブリを使った、実際につくった秋の献立2例

――書籍では、寿木さんが極めた「きほんの10品」が紹介されています。その料理を使った、最近の献立の例はありますか?

「秋のある日の献立を2例ご紹介します。大好物のブリを使って、テイストの異なるふたつの献立をつくりました。いずれも『きほんの10品』を応用させた仲間レシピから構成されています」

(1) 焼きブリのさっと煮を主役に

焼き魚のさっと煮メインの献立
ある秋の日の献立
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「『きほんの10品』のうち、『焼き魚のさっと煮』がメインの献立です。ブリをフライパンで焼いてから、コマツナで覆い尽くし、水か湯を注いでフタをします。味つけはしょうゆとみりんのみ。魚と野菜が一度に取れる、簡単で汎用性のあるレシピです。旬のムカゴを炊き込みご飯にして、キノコをたっぷり使った温かい酢の物をそえました。

温かい酢の物って、ちょっと意外ですよね? 煮干しと水、キノコ、油揚げを鍋に入れてから火にかけ、酢と砂糖、鶏ガラスープの素少々で味をととのえます。いちど火をとおしてあるので、ツンとくる酸味がやわらぎ、汁物代わりに重宝します。私は火を止めてから最後に“追い酢”をして、フレッシュな酸味をたしています。もちろん煮干しもそのまま食べます」

焼き魚のさっと煮
「ブリは薄く塩をして15分ほど置き、水気を拭いてからフライパンで両面を焼きます。おいしそうな焼き色がつき、滋味深いスープのもとにもなります。豆腐とキノコも一緒に煮れば、これ1品で夕飯のおかずが完成します」

(2) ブリの刺身を使った簡単お寿司丼

簡単お寿司丼献立
30分でバランスのいい献立に

「こちらは『刺身混ぜずし』の応用。ブリの身に赤シソゆかりと白ゴマを振りかけ、酢飯の上に乗せるだけ。すし酢はある程度まとめてつくり置きしていますし、市販のものも持っています。野菜を切るだけの『切るだけサラダ』には、旬の白菜、しかも軸の硬い部分だけを使っています。ここ、おいしいんですよね。
汁物は、白菜の葉の部分と、レンジで蒸して潰したサトイモを豆乳仕立てにしました。30分で完成したとは思えないくらい、満足度の高い夕飯になりました」

簡単お寿司丼
「ゆかりは手づくりなので、市販のものよりちょっと黒く見えます。ブリとゆかりはとても相性がいいので、ぜひ試してみてください。しょうゆとワサビで食べるレシピとはまた違った楽しみがあります」
――この本を読んだ読者や、周囲の人からはどんな反響の声がありましたか?

「皆さんこまかく丁寧に読み込んでくださっていて、しかもそれをレビューやSNSで書いて拡散してくださったことにまず驚きました。こんなに感想文の長い料理本はなかなかないと思っています。改めて本のもつ力を感じました。

とくに多く見られたのが『レシピ本のカテゴリーに収まらない不思議な本』というコメントです。本を読んでレシピを知るだけではなく、読み終わったあとに自分の暮らしを再点検し、再構築していくというアクションを生む本だというのが、多くのコメントに共通した意見でした。友達からは『時短という言葉を出さないでくれて、ありがとう』とも言われました。

働く親だからって、誰もが時短をしたいわけじゃない。手抜きをしたいわけでも、『映え』を目指したいわけでもない。忙しい毎日でも、できる範囲でクリエイティブに健康的に料理をしたい。この本はそういう気持ちに寄り添ってくれている、と彼女は話してくれました」

【寿木けい】

富山県出身。ファッション誌の編集者を経て、食を主戦場とする会社に転職。著書に『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』(小学館)など。2020年には書き下ろしエッセイを出版予定。趣味は読書。好物はカキとギムレット。 ツイッター:きょうの140字ごはん(@140words_recipe) ブログ:http://keisuzuki.goat.me/