「国民の中に自ら入っていく」。父の教えが活動の原点です

彬子女王殿下
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――彬子さまが総裁を務めていらっしゃる、一般社団法人「心游舎(しんゆうしゃ)」についてお聞かせいただけますか。

彬子さま:心游舎は、日本文化を子どもたちに身近に感じてもらうことを目的に、13年前に立ち上げました。私は、イギリスで長く日本美術の研究をしておりまして、その間、研究者の方、文化系の財団の方、日本の省庁の方などにお目にかかる機会がたくさんありました。皆さんそれぞれ、日本の伝統的なものを守り、残していかなければいけないという思いがおありだけれども、横のつながりというのはあまりないように感じたのです。その後、帰国して京都の大学に勤めるようになり、伝統文化を担っていらっしゃる方たちにお目にかかる機会が増えるなかで、「このままでは、日本の伝統文化は残っていかない」という話をたくさんの方からお伺いしました。そこで、これはなんとかしていかなければという思いに至り、心游舎を立ち上げました。

――具体的に、どのような活動をされていらっしゃるのでしょう。

彬子さま:日本文化の未来を担っていくのは、やはり子どもたちです。子どもたちに日本文化を身近に感じてほしい。「これは大切な文化だから守ってください」と押しつけるのではなく、子どもたちひとりひとりが、暮らしのなかで「これは大切な文化だから守っていきたい」と思えるように、さまざまなワークショップを開いています。私自身も参加して楽しんでいます。

稲刈り
稲刈りをされる彬子さま。「田植えのあと、草取りを経てお米が実ります。自分で手をかけたお米の味はやはり格別です」

――体験型ワークショップは、田植えや稲刈りなどの米づくり、和菓子づくり、日本茶、漆など多岐にわたり、オンラインのトークセッションも実施していらっしゃるそうですね。自ら田植えや稲刈りにまでご参加されるとは驚きです。新しいご著書『日本文化、寄り道の旅 ~彬子女王殿下特別講義~』のなかで、寬仁親王殿下が「皇族というのは国民の中に自ら入って行って、国民の求めることをするのが仕事だ」とよくおっしゃっていた、とつづられています。ワークショップに参加されるのも、そうしたお考えに基づいてのことでしょうか。

彬子さま:そうですね。それに、私は「石橋を適当にたたいて渡る」性格です。一応、たたいてはみますが、「おもしろそう」「楽しそう」と思ったら、あと先をあまり考えず、行動を起こすところがあります。やはり、自分で実際に現場を見ないことには、なにもわからないと思うのです。それは、子どもたちに日本文化を伝える際にも心がけていることです。

たとえば、10万円の輪島塗のお椀と100円ショップで売っているプラスチックのお椀があったとして「どちらを選ぶ?」と聞いたら、多くの子どもがなじみのあるプラスチックのお椀を選ぶでしょう。でも、なぜ漆のお椀が10万円するのかという説明があまりされていないように思います。本物の力というのは子どもに伝わります。実際に現場に赴き、漆のお椀をつくるのに途方もない手間がかかることを知ると、「これが本当に10万円でいいのですか?」と思うかもしれない。そして、漆の器を大切にしよう、ずっと使い続けようと考えてくれる子どもが増えれば、漆の文化は残っていくと思うのです。そうした体験ができる場を提供したいと考えています。