75歳になると、勤めているかどうかに関わらず、それまで加入していた医療保険から、自動的に「後期高齢者医療制度」に移行することになります。その後期高齢者医療制度が、2023年の法改正により保険料が値上げされることになりました。保険料は2024~2025年の2年にわたって値上げされ、75歳以上の約4割が対象となります。ここでは医療費節約のコツについて、『おひとりさま[老後生活]安心便利帳 2025年版』(扶桑社刊)を監修したファイナンシャルプランナーの黒田尚子先生に伺います。
すべての画像を見る(全4枚)値上げで影響を受けるのは、年金収入が年間153万円を超える高齢者です。年金収入が年間211万円を超える人は2024年度から値上げ、153万円超211万円以下の人は2025年度からの値上げの対象に。
黒田先生に「後期高齢者医療制度とは何か?」を改めて解説してもらうとともに、医療費が節約できる制度、民間の医療保険の請求手順についても教えてもらいました。
※この記事は、扶桑社ムック『おひとりさま[老後生活]安心便利帳』より一部を抜粋し、再編集しています
「後期高齢者医療制度」とは、どのような制度?
「後期高齢者医療制度」は、高齢者世代と現役世代との公平性を保つために導入された制度です。課税所得が145万円以上の人は医療費の自己負担割合が3割、課税所得が28万円以上で年収200万円以上の人が2割、それ以外の人は1割となっています。「2022年10月から自己負担が2割に引き上げられた人には、3年間の軽減措置があるので、自分の負担額を確認してください」と、黒田先生は言います。
「後期高齢者医療制度は都道府県単位で運営されているため、保険料も都道府県ごとに違ってきます。保険料が値上げされるとお話ししましたが、厚生労働省によると2024年度の保険料額は平均で年間6000円程度の増加、2025年度は2024年度より年間1300円程度の増加となります。対象となる人は確認しておきましょう」(黒田先生)
国民健康保険から後期高齢者医療制度へのきり替えは、基本的には自動で行われるので手続きは必要ありません。会社に勤めている場合も、会社が手続きしてくれます。ただし、被扶養者がいる場合は、所定の手続きが必要になります。
「基準収入額適用申請」と「療養費」で医療費を節約
高齢者になると、病院のお世話になることも多くなり、医療費負担も大きくなります。入院すると負担はさらに大きくなり、治療費のほかに入院基本料、食事代、病院の種類や部屋タイプによって変わる差額ベッド代などの費用が加わってきます。
このうち、入院基本料は保険が適用されますが、食事代は一部自己負担ですし、差額ベッド代は全額が自己負担。そのほかに、入院すれば日用品を購入することもありますし、テレビを視聴するにも費用がかかることもあります。シーツや病衣のクリーニング代も必要です。
仕事をリタイアした後は収入も減るため、医療費はできる限り安く抑えたいもの。そんなときに知っておきたいのが、「基準収入額適用申請」と「療養費」という制度です。
「基準収入額適用申請」は、医療費の支払いが厳しい場合に自己負担額が抑えられる制度です。70歳以上で、健康保険の自己負担割合が3割の人は、要件を満たせば自己負担割合が1~2割に軽減されます。後期高齢者医療制度の対象者も、条件次第で適用される可能性も。
一方の「療養費」は、医療費を立て替え払いしたときや治療用装具を購入したときに払い戻しを受けることができる制度です。健康保険では、医療機関の窓口に保険証を提示して診療を受ける「現物給付」が原則。しかし、緊急搬送で保険証が手元になかった場合や、医者が治療に必要と認めた治療用装具を購入した場合などで、いったん医療費を全額支払わなければならないケースもあります。そんなとき、あとから請求をすると、保険給付相当額の7~9割を払い戻してもらえます。
そのほかにも、1か月の医療費が高額になった場合、一定の自己負担限度額を超えた分が戻ってくる「高額療養費」や、通常10万円以上の医療費を支払った場合に翌年の確定申告で所得控除が受けられる「医療費控除」などの制度もあります。また、自治体によっては、特定の対象者に対する医療費の一部を助成する制度を設けているところもあるので、確認してみてもいいかもしれません。
医療費支援制度には、利用するための要件がありますし、申請先も変わってくるので、自治体の窓口や医療ソーシャルワーカーなどに相談してみましょう。
黒田先生によると、「入院前はなにかとあわただしく、思うように時間がとれないので、入院時の費用も含めて早めに準備しておくと安心」ということです。