外国人建築家にも高く評価。日本最大規模のモダニズム建築
すべての画像を見る(全15枚)日本における初期モダニズムの名作として、近代建築史にその名を刻む「東京中央郵便局」。昭和8年に来日したブルーノ・タウトや日本で活躍したアントニン・レーモンドといった外国人建築家にも高く評価されました。
当時、先進的な視点による設計活動で日本の建築界に新風を吹き込んだ逓信省(ていしんしょう)経理局営繕課の旗手だった吉田鉄郎氏が設計を担当。ヨーロッパ建築界の変化や潮流を吉田は機敏に汲み取り、日本で最大規模のモダニズム建築が完成しました。
これによってわが国は建築においても先進国であることを世界に示すことができ、「東京中央郵便局」は吉田氏の代表作ともなりました。
台形の敷地に建つ「東京中央郵便局」は、東京駅前広場に接した2面の正面の間を屈曲させて長大なファサード(建物全面のデザイン)を展開し、スパン6mで並んだ柱と梁の構造体を表層に現しています。
その分割した間には大きな窓がはめ込まれ、上階に行くほど窓の高さを低くして変化を与えており、4階と5階の間に配している胴蛇腹が全体を引き締めています。
●平成20年。高層ビルへの改築する計画が発表
このモダンで張りをもったデザインの局舎は、東京に集まる膨大な郵便物の処理業務のセンターとして長年使用されていましたが、平成20年に日本郵政株式会社により高層ビルに改築する計画が発表されました。
再開発の着手直後にここを視察した当時の総務相であった鳩山邦夫氏が、「重文の価値のある建物をそうでなくすることはトキを焼き鳥にして食べるようなこと」と発言。
そのため、工事が一時中断するなど、再開発問題は政界を巻き込む形で物議を醸しましたが、駅前広場に面した東京中央郵便局の壁面を保全して高層建築を載せた「JP タワー」が平成24年に竣工。
この建物の完成により、東京駅前のビルはすべて高層化しました。
東京中央郵便局の館内を撮影したのは建物閉鎖後でしたが、驚いたのは1階から3階にある郵便物の仕分けや発送の業務を行っていた現業室の広さでした。
東京に入ってくる膨大な郵便物を処理するために、フロアの3分の2を現業室が占めていました。がらんどうになったその大空間を支えるために並ぶ108本もの柱は、まるで森に林立する巨木のようで、じつに壮観でした。
<Architect Data>
所在地:東京都千代田区丸の内
設計:吉田鉄郎
施工:銭高組、大倉土木
竣工年:昭和6年(1931)
解体年:平成20年(2008)
『もう二度と見ることができない幻の名作レトロ建築 』(扶桑社刊)では、日本、満州、朝鮮にかつて建てられ、いまでは取り壊されて現存しない、43の傑作レトロ建築を巡って旅をするように、貴重な写真で紹介しています。