献立を考えるのは料理人にとっていちばん大事な仕事
すべての画像を見る(全3枚)――『賛否両論』では2週間ごとにコース内容が変わりますが、それだけでなく、名古屋店やプロデュースしている店舗など、すべての献立を笠原さんが考えているんですよね。
笠原:そうなんですよ。これだけは僕がひとりで決めています。だから、日々悩みが尽きなくて。朝起きてから寝る直前まで、常に料理のことを考えていて、夢の中でもだいたい料理をつくっています(笑)。
――献立を考えるのは、それほど責任重大な仕事なんですね。
笠原:僕の修業時代の師匠は、「献立を考えるのは料理長にとっていちばん大事な仕事だ」とよく言っていました。いつも店の個室にこもって考えては、「笠原! なんかいいメニューはないか?」としょっちゅう声をかけられていました。当時はテレビで『料理の鉄人』が流行っていたので、新人の僕は「献立を考えるなんて楽しそうなのに、なにがそんなに大変なんだろう」と呑気に考えていました(笑)。
――お店の献立は、アイデアだけでなく、原価も計算しなければいけないですしね。
笠原:そこも悩みどころですよね。まぁ、家庭でも食費がだいたい決まっているだろうから、同じですよね。師匠からは「キュウリ1本、油揚げ1枚でも金になる一皿を考えるんだぞ」と徹底的にたたき込まれました。
そのおかげで、自分でいうのもなんですが『賛否両論』のコースは相当緻密にできていると思います。一回組み立てたら、いろいろな角度から何度も見直しをしています。たとえば、同じコースの中に「スズキ」の料理と「鯛」の料理があったとすると、「自分のようなプロなら魚の違いがわかるけど、お客さんからすると白身の魚ばっかりと思われちゃうかな?」と思って変更したりね。
――聞けば聞くほど、献立は奥が深いですね。
笠原:ほんとにそうですね。バランスをとりながら物事を組み立てる練習になるので、料理人以外の仕事にも通じるところがあると思います。
50代、これからの人生の展望
――最後に、仕事でもプライベートでもいいので、今後の展望がありましたら、お聞かせください。
笠原:まずは、『賛否両論』金沢店を復活させることですね。以前にオープンしたときは、直後にコロナ渦となってしまい、やむなく閉店してしまったので。ただ、店自体はまだ残してあるので、もう一度あの厨房に立って、微力ながら石川県の復興の役に立てればと思っています。
あとは、店の近くに個人的なスペースを借りたので、大人の秘密基地にしようかと。たとえば、新しい料理の試作をしたり、少人数のぜいたくな料理教室を開いたり、友人たちとの食事に使ったり。気づけば50歳を過ぎ、料理人人生も後半戦。僕は料理以外に趣味がないので、ここで自分の好きなことを追求しながら、これからの人生も楽しみたいと思っています。