ある日、街の時計台が時間を刻まなくなってしまった。一時間に一度鳴る鐘の音もなくなり、人々の生活の調子がおかしくなってしまった。そのときになって、みんなやっと気がついたのだ。時間が溶けてしまったのだと。

その頃になると、富裕層は地下シェルターで暮らすようになっていた。地上よりかはいくらか過ごしやすかったのだ。食料はもっぱら配達してもらっていた。新たな地下経済が誕生しようとしていた。

あるいは宇宙を目指す人々もいた。天空と地下のどちらかを目指していた。

オルソンはこの状況も問題視している。限られた人間が上層と下層を占拠しようとしていると。彼らは時間が溶けようと関係ない。世界の果てまで逃げるだけだ。

そして、残された人々が地上のうえで暑さに苦しんでいる。そのうえ、時間まで溶けてしまった。

エミリーは心を痛めた。溶けた時間は冷凍庫で固めるしかない。時間はかかるかもしれないが、それしかないのだ。

彼女は時間用の冷凍庫の特許をとり、それをメーカーに売り込んで商品化した。すぐに話題となり、たちまち大ヒット商品となった。エミリーのもとには大金が転がり込み、彼女はそのお金で地下シェルターを買った。

編集部より

時間がなくなることを「時間が溶ける」とは言いますが、ほんとうに溶けているわけではありません。そもそも時間は実体がないので溶けようがありません。

時間に追われているときは、思いきって「なにもしない時間」を作るといいかもしれません。立ち止まると見えてくるものもあるかもしれませんよ。

「ふしぎなお悩み相談室」は、今回が最終回となります。これまでご愛読いただき、ありがとうございました。