仲間に連れられて入った洞穴には…
指さされた壁を見て、男は驚いた。そこには牛のような生きものが描かれている。壁一面にさまざまな動物のすがたが刻まれていた。
「すごいな。どうやって描いたんだ、これは?」
「こうやって尖った石を使って、壁を削るんだ。そうすると、それが線になって絵が描けるんだ」
そう言って、足もとにあった石を拾い上げると壁を切りつけた。すると、土が削り落ちて、線ができあがる。狩りをする人間を描き足していった。
「すごいな、お前にこんな秘密があったなんて」
「ああ、誰にも言うんじゃないぞ」
絵を描き終わると、使っていた石を足もとに捨てた。
「お、おい、この石はどうするんだ」
「どうするって、なにを言っているんだ?」
「片づけないのか」
「石なんて、そこらへんに転がってるだろ」
そう言われてあたりを見ると、たしかにそこら中に石が転がっていた。さっき使っていた石も、もはやどれかわからない。
男が洞窟から出ようとすると、ぽつぽつと水滴が身体に当たるのを感じた。ふと見上げると、空を雲が覆っている。雨だ。このままこの洞窟で過ごそう。男はそう思った。気温が下がり、寒気を覚える。こんなときに身体を暖めるものがあればいいのに。そう、森を燃やした火のようなものが──。
「なにを考えているんだ?」
仲間の声にはっと我に返る。
「いいや、なにも」
男は首を横に振った。
雨を降らす雲はどこまでも流れていく。どこに流れても、その下には土や植物がある。そして、海も。建物はひとつもない。
そんな場所で、かつてのわたしたちはただ生きていた。
【編集部より】
古代の生活に戻れば、ゴミという概念もなくなるということでしょうか?
たしかにそうかもしれませんが、タイムマシンでも発明されない限りそんなことはできません。
ゴミ出しの日はスマホにリマインドが送られるようにするなどの工夫をすると、忘れることも減るかもしれません。
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