●「うま味」の一大ブームで和風の味つけが普及
ますます高まる健康志向と、ベジタリアンやヴィーガンなどの食の多様化により、豆腐や枝豆といった大豆製品は肉類の代替品として地位を確立しています。また、ヘルシーな発酵食品の人気が高い昨今、みそにも注目が集まります。都市部ではレストランだけでなく一般家庭でも、普段のスープの隠し味などとして使われているのです。
その理由のひとつに、料理や食材にコクを加え、おいしさを引き出す「UMAMI(うま味)」ブームがあります。みそは、そのUMAMIが豊富とされ、ラーメン人気も相まって認知が進みました。
そして、しょうゆもUMAMIに欠かせない調味料として脚光を浴び、だししょうゆ、てりやきソース、すき焼きのたれなど、さまざまな商品が展開。商品名やうたい文句もUMAMIのワードの連発です。
すべての画像を見る(全7枚)この和食ブームで個人的にうれしかった変化は、日本風の「薄切り肉」の販売が増えたこと。ほんの10年くらい前まで、アメリカの肉売り場にはステーキのように分厚い肉しか置いてありませんでした。いちおう「厚切り」「薄切り」の区別はあるのですが、たとえ薄切りの表示でも、日本の薄切り肉とは段違いの厚みがあるのがアメリカ(笑)。
そこで、現地の日本人は肉売り場で塊肉をその場でスライスしてもらえる店を探したり、冷凍した塊肉を半解凍にして自分でスライスしやすくしたりと、涙ぐましい努力をしていました。それが、ついに日系、アジア系以外の一般スーパーでも手に入るように! 今では近所のコストコでも買えます。コストコでは銀ダラも売っているので、よく粕漬けにして食べています。この「KASUZUKE」も、すっかり英語化して久しいアメリカです。
つい数年前まで、アメリカで日本らしい食事をつくるのがどんなに大変だったか…。日本から両親が訪ねてきたとき、父から「夜はすき焼きでいいよ」と軽く言われたときにはギョッとしたものです。アメリカでは日本と違い、すき焼きは「簡単にできる鍋料理」ではなく、薄切り肉もそうですし、生で食べられる低温殺菌済みの卵(アメリカではサルモネラ菌の恐れから卵の生食は基本的にしていなかった)も、なかなか手に入りませんでした。それが今は、「すき焼き用」や「しゃぶしゃぶ用」と記された薄切り肉も、生食用の卵も、都市部で普及し始めています。
とはいえ、口の中で溶けそうにやわらかい和牛とはまったく違い、歯ごたえ抜群のアメリカの肉ですから、すき焼きやしゃぶしゃぶにしても、やっぱり別物。アメリカの肉は煮るより焼いたほうが、持ち味を発揮するようです。日本の食べ物が手に入りにくかった昔と比べたら恵まれていると思うし、家でつくってもそれなりにおいしいのですが…。
やっぱり和食は日本の水で育った米と野菜、魚、肉を、3倍も4倍も高い輸入品ではなく、現地価格で気軽に食べたいというのが本音。日本に里帰りすると、本場の味の違いに驚く外国人の気持ちがよくわかります。