環境・社会問題に対する意識の高さで知られるドイツでは、SDGsを家づくりにどのように取り入れているのでしょうか。日本が学ぶべきポイントについて、時事YouTuberのたかまつななさんが、在独歴25年のジャーナリスト・田口理穂さんに聞きました。

時事YouTuberのたかまつななさん(左)とジャーナリストの田口理穂さん(右)
時事YouTuberのたかまつななさん(左)とジャーナリストの田口理穂さん(右)
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クラスの女子の半分がベジタリアン

たかまつ:ドイツの人々は環境問題への意識が高いと聞きます。実際にドイツに住んでみて、日本人との意識の差をどのようなところに感じますか?

田口:まず、小さい頃から環境問題に関心を抱いている人が多い、ということがあげられるでしょう。ドイツでは幼稚園や小学校のうちからエネルギー問題やSDGsについて学びます。私の息子は日本でいうと中学2年生ですが、クラスの女の子の半分はベジタリアンだといいます。というのも、牛が排出するメタンガスが温暖化の大きな原因になっているという問題意識がそれだけ浸透しているからです。

たかまつ:それはすごいですね!

田口:2021年9月の総選挙では、環境政党の「緑の党」が大きく躍進しましたが、息子たちが選挙権を持つ年齢になれば、彼らは今以上に力を持つようになるだろうといわれています。

たかまつ:日本でも、それなりに環境教育に力を入れようとはしていますが、子どもたちにそこまでのインパクトを与えられるか疑問です。バックグラウンドの違いがあるのでしょうか?

田口:そもそも、教育のシステム自体が違うのだと思います。日本ではテストの点数がおもな評価の対象になるでしょうが、ドイツではそれほど重視されません。一方で、環境問題について1週間かけて学ぶようなプロジェクトが定期的に行われ、そこでの取り組みが成績に反映されます。だから、みんな自発的に調べ物をしたり、発表したりしていますね。

たかまつ:なるほど。そこでリテラシーに差がつくのでしょうね。

 

未来のための金曜日
気候変動対策を求める活動「未来のための金曜日」には数万人が参加

田口:もうひとつ、近年になって災害と気候変動の関わりが周知されるようになったことも、市民の意識を変えるのに貢献しました。2021年夏にドイツ西部で大規模な洪水が発生したときも、メルケル首相(当時)は気候変動との関連を強調し、CO2削減の必然性を訴えています。気候変動によって自分たちの生活が脅かされるというリアルな不安が、意識の高まりの背景にあるのでしょう。

たかまつ:それも、日本と大きく違うところですね。私は以前、NHKのディレクターだったのですが、日本では自然災害と気候変動がセットで伝えられることがほとんどありません。災害の構造的な話をするよりも、被害状況をメインに報じるべきだという風潮が強いのです。気候変動に対する危機意識が海外より低いのは、そのせいかもしれません。

 

築100年の住まいを、改装しながら大事に暮らす

ドイツの古い街並み
築100年以上の古い建物の内部をモダンに改装して住む人も多い

たかまつ:住まいについては、日本とドイツでどんな違いがありますか?

田口:「家は長持ちするのが普通」という感覚が、まず違うのではないでしょうか。ドイツの住宅は基本的にレンガ造りか石造りなので、中だけ改装すればずっと使えます。私が住んでいる建物も築100年のレンガ造りです。もちろん、求められる耐震性能が違うので、単純に比較はできませんが、日本のように、中古になると住宅の資産価値が下がることもないので、大事に長く使おうという意識が浸透していますね。ときどき日本から来たビジネスパーソンの視察に通訳として同行すると、「家は20年ごとに建て替えた方が経済は回る」みたいなことをおっしゃる方がいて、感覚の違いにびっくりします。

たかまつ:ドイツでは、古い住宅の省エネリフォームも盛んだそうですね。

田口:リフォームについては「必要にせまられて」という部分も大きいでしょう。なにせドイツは冬が寒いので、樹脂サッシを入れて気密性を高めたりすることが住みやすさに大きく影響します。さらに、燃料代も日本より高いのですが、省エネリフォームを行えば、古い家なら暖房費が最大8割くらい削減できます。そうした背景があるから、国や自治体も省エネリフォームに補助金を出すなどの施策を積極的に行っているのです。都市の中にも、発電所で出た熱を利用して温めたお湯を近隣の住居や公共施設に供給して、暖房に活用するといった取り組みを独自に行っているところが多数ありますね。

たかまつ:そうしたムーブメントに対する企業の反応はどうでしょう? 日本では、再エネに対する企業の抵抗が、いまだに根強いと感じるのですが。

田口:ドイツでも当然、大手電力会社の抵抗はあると思います。その一方で、とくに若い世代の間で企業に対して環境リテラシーを求める消費者が増えるなか、再エネの活用をアピールする企業も確実に増えています。また、再エネ化を進めていくのはEU全体の方針ですから、国としてそちらに向かうのは必然といえるでしょう。