●新型コロナは治癒しても、新たに「1型糖尿病」が持病に

橘さんは退院してから5か月あまりたち、ウォーキングや軽いランニングを始めるまで回復。今も後遺症は残っているのでしょうか?

「後遺症は、生活習慣病ではない『1型糖尿病』を発症したことです。家族で糖尿病の人もいなかったし、健康診断でも言われたことがないため、最初はとても驚きました。でも『生かしてもらったから、朝昼晩のインシュリン注射くらいどっーてことない!』と考えて、糖尿病とは仲よくつき合っていこうと思っています。ほかにはエクモ装着の際に気管を切開したことで、少し声が出にくくなりました」

●退院後、夫の言葉は「いつか」から「いつ」に変わり、1日1日が大事になった

夫婦で新型コロナに感染し、妻が危篤の際にも夫は駆けつけることもできなかったという大変な経験から、夫婦関係にも変化がありました。

「今までは夫の言い方が『いつかここに行きたいね』とか『いつかこれやろうね』でしたが、退院後は『いつ行く?』『いつこれやろう!』と変わりました。
つい数時間前に笑顔で『行ってくるね! バイバイ!』と言って療養先の病院へ向かったと思ったらすぐに危篤の連絡が届く、という恐ろしい体験をした夫の率直な気持ちのようです。夫はわかりませんが、私は夫に対して、細かい怒りなどで時間を無駄にしたくないと思うようになりました。そうは言っても、頭にくることはちょいちょいありますが…(笑)」と橘さん。

橘さんご自身も「いつ死んでしまうかわからないから1日、1日が大事」と思うようになったそうです。生死をさまよう体験をしたからこそのリアルな言葉は、心にしみます。

●新型コロナ、地震など「万が一の場合」を日頃から想定しておこう

今回の橘さん夫妻の新型コロナ感染では、夫は自宅療養、妻は入院というケースでした。

猫
橘さん夫婦が一緒に暮らす3匹の猫のうちの1番目、ビッタン(メス・10歳)
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「夫は自宅療養で過ごし、1日半程度の発熱ですむという軽症でした。私は“猫の世話はどうしよう”と思っている間に高熱で倒れて入院、夫が陽性かどうかも知らないまま三途の川へ…。もし万が一、夫も入院だった場合、自宅に残した猫の世話はどうしたらよいのか、話し合うこともできなかった状況でした」

目がぱっちり猫
3番目の猫、モモ(オス・1歳)

「今回のことで元気なときに、自分が病気になったらどこのだれに連絡するかなど紙に記したり、頼れるコミュニティを日頃からつくっておかないと大変だと実感しました。この準備は災害時にも必要だと思うので、ぜひ、家庭で話し合っておくことをおすすめします」

橘さんのエクモ生還記は、50代というまだまだこれからの年齢で健康な人でも新型コロナが重症化してしまえば、数か月の闘病や生死をさまよう壮絶な事態が起きること、そして新たな病を併発する可能性があることを示唆しています。

「東京などでは緊急事態宣言が続いていますが、“どこに行ってはいけない”“外食するな”など、あれこれ“やるな”ではなく、大事なのは緊張感をもって生活することだなと感じています。
大切な人を想いやり、その人に新型コロナを移してしまうかもしれないと想像しながら行動する。気力体力がある人でも重症化してしまうのが新型コロナの現実です。身近な人が死にかけることはどういうことなのか、私のエクモ体験談をとおして考えるきっかけになればうれしいです」と橘さん。

ワクチン接種が広く行きわたり、安心して過ごせる日まで、「緊張感をもって暮らす」ことを心がけ、「万が一のことを想定して話し合っておくこと」を今すぐに始めたいですね。